日本詩歌読本《下》 大岡信

1987年9月15日第1刷発行

 

芥川龍之介の旋頭歌

 言にいふにたへめやこころ下に息づき 君が瞳をまともに見たり鳶いろの瞳を

 ひたぶるに昔くやしも わがまかずして 垂乳根の母となりけむ昔くやしも

 芥川は、人妻を相当長期にわたって憧れていた。旋頭歌はかけあいの歌という性格が強いため、一人の人の心の奥底の微妙な思いを書くには短歌に叶わなかった。

万葉集では花は咲き誇り、古今和歌集では花というものは散るという思想が出てきて、新古今和歌集では花は散るために咲くというような無常観が入って来る。

・平安朝歌謡を集大成した『梁塵秘抄』の一部が、明治の末に発見され、これを夢中になって読んだのが北原白秋斎藤茂吉芥川龍之介佐藤春夫らだった。

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美女打ち見れば 一本葛にもなりなばやとぞ思ふ 本より末まで縒らればや

切るとも刻むとも 離れ難きはわが宿世