人形の家 イプセン 矢崎源九郎 訳

昭和28年8月20日発行 平成28年7月15日95刷改版 令和元年12月10日96刷

 

幸せに生きていた弁護士ヘルメルの妻ノラには、夫のために違法なことをした秘密があった。それを知った夫は妻をののしる。問題が解決したので夫が再び優しく妻を迎えようしたら、人形ではなく人間として生きていこうと願い、夫と3人の子どもを捨てて家を出てしまう。女性解放論の嚆矢のように扱われる作品。キリスト教的な価値観で妻とはこうあるべきということに対抗した近代劇・社会劇と評されるのは勿論分かるが、人間と生きたいということから、妻や母の立場を捨ててしまうというふうにつながっているところが、やはり腑に落ちない。当時から賛否両論あったらしいが、両立させられると思うし、それこそを追求してもよさそうだと思う。人形ではなく人として人間として生きるとはどういうことなのかを考えさせるという意味では、名作だとは思う。この結末まで読んで、私は、なぜかしら遠藤周作の「沈黙」のことをふと思い出した。