極夜行 角幡唯介

2018 年 2 月 10 日第1刷


 シオラパルク(グリーンランド)からツンドラ地帯にかけて犬橇探検を実行する作者のノンフィンション作品。既存のシステムから飛び出ることが探検だと考える筆者は、太陽が半年間昇らない、夜がひたすら続く環境に身を置き、そこで見る初めて太陽がどういうものかを実体験したいと考えて犬橇探検を実行する。数年にわたる入念な準備の末、実行に移すが、実行に移した直後、極夜病にかかる。最終章で太陽を見た時に、これを体験したくてこの長い長い極夜の中で生活し続けた作者をそこまで突き動かしたのは果たして何だったのだろうか。凡人過ぎる私にはなかなか理解し難い。
 ちなみにこの作品で著者は冒頭に妻の初出産の場面を描く。最初何でだろうと思ったが、赤子がお腹から世に出てくる場面と極夜が続いて初めて太陽を見る場面との類似性に気付いたからだと著者はいう。何となく分かるような気もするが、でも良く分からない。極夜の経験もなければ出産に立ち合った経験もなく、もとより出産時の記憶(初めてこの世に出てきた時の記憶)があるわけもないのだがら当然なのではあるが。それにしても既存のシステムの外に飛び出してみてその領域で果たして何が見えるのかという着想はマトリクスの一連の映画を思い起こさせる。
 角幡さんはツアンポー探検を描いた作品『空白の五マイル』で 10 年に開高健ノンフィンション賞、11 年に大宅壮一ノンフィンション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞したノンフィクション作家。次作『雪男は向こうからやって来た』は 12 年に新田次郎文学賞受賞、『アグル―カの行方』は 13 年に講談社ノンフィンション賞受賞、『探検家の日々本本』で15 年に毎日出版文学賞書評賞受賞と凄いキャリアを築いている。分野は違うが、チャンレンジ精神に溢れているところは見習いたい。