紅梅 津村節子

2013年7月10日第1刷

 

帯封「吉村昭との最後の日々 吉村氏の闘病と死を、妻と作家療法の目でみつめ全身全霊を込めて書き上げた衝撃作」「『紅梅』がたんなる闘病記ではないのは、死に至る病に向き合う夫と妻の闘病の壮絶さとその対極にある甘美さ、そして、その狭間を揺れ動く育子の葛藤が惜しみなく描かれているからである。(最相葉月『解説』より)」

裏表紙「舌癌の放射線治療から1年後、よもやの膵臓癌告知。全摘手術のあと夫は『いい死に方はないかな』と呟き、自らの死を強く意識するようになる。一方で締切を抱え満足に看病ができない妻は、小説を書く女なんて最低だと自分を責める。吉村昭氏の闘病と死を、作家と妻両方の目から見つめ、全身全霊で文学に昇華させた衝撃作。」

 

第59回菊池寛賞受賞。

最後の方で、夫は自ら点滴を始め自らの体に繋がれたカテーテルポートを引きむしり、再び看護師に装着されそうになるのを抵抗して、これ以上の延命措置を拒み、自ら死を選ぶ場面が登場する。力の限り抵抗する夫の姿を見ていた妻が「もういいです」と泣きながら言い、娘も「お母さん、もういいよね」と言う場面に衝撃を受けた。その後、蒸しタオルで夫の軀を隅々まで拭ってやり、最後に夫は声にならない声で息子に語り掛け、息を引き取った。妻は夫に「あなたは世界で最高の作家よ」と叫んでいたと後から娘に聞いた。小説家の妻によるリアリティ溢れた描写に思わず手に汗を握る展開が最初から最後まで続く。

途中で抗がん剤治療を受けている最中の副作用に苦しむ姿を妻は淡々と描き、またその後に免疫療法に希望を見出しながらも、結局は寿命が尽きていった吉村昭氏。大好きな作家だっただけに晩年こんな大変な闘病生活を送っていたとは知らず大変驚いた。早速、妻の作品もいくつか読んでみたいと思うようになった。