老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

2021年11月20日第1刷発行

 

今、かなり売れている新書。表紙裏に「若者の生活を犠牲にして老人のコロナ死亡率を抑えた日本だが、社会の存続に重要なのは高齢者の死亡率より出生率だ。「家族」が日本社会の基礎だが、「家族」の過剰な重視は「非婚化」「少子化」を招き、かえって「家族」を殺す」とある。

「第1章 老人支配と日本の危機」は、「1 コロナで犠牲になったのは誰か」「2 日本は核を持つべきだ」「3『日本人になりたい外国人』は受け入れよ」、

「第2章 アングロサクソンダイナミクス」は「4 トランプ以後の世界史を語ろう」「5 それでも米国が世界をリードする」「6 それでも私はトランプ再選を望んでいた」「それでもトランプは歴史的大統領だった」、

「第3章 『ドイツ帝国』と化したEU」は「8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する」「9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』」、

「第4章 『家族』という日本の病」は「10『直径家族病としての少子化磯田道史との対談)』、「「11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人との対談)」で構成されている。

 見出し・項目を見るだけで違和感を持つ人がいると思うが、それでも大変刺激的な内容だ。第1章の中では、特に移民政策については多文化主義ではなく、寛容で柔軟な同化主義が求められるというのも斬新。第2章では、資本主義をうまく機能させるためには「創造的破壊」が必要だが、これが得意なのは英米であるため、今後も英米中心は揺るがない。なぜ英米が創造的破壊が得意なのか?それは絶対核家族という家族形態にある、子は親から独立して別の場所で生計を立てていかなければならないからという指摘もそんな視点があったとは知らなかったため大変刺激を受けた。ピケティは1945年から30年間だけを見るのではなく200年の歴史をさかのぼって格差拡大の論証を行った、しかもフランス人が経験主義に基づいてという皮肉めいた言葉で紹介してくれている。

 全体を通してピリッとした感じでキラリと光る内容が随所に織り込まれていて、頭のいい人だと感じた。