ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられているのか? 堤未果

2022年12月20日第1刷発行

 

表紙裏「培養肉、ゲノム編集食品、食べるワクチン・・・フードテックの世界的な潮流の中、現代人の食は大きく変わろうとしている。気候変動時代のマネーゲームと〈デジタル農業計画〉の裏とは? 一方、牛や微生物の力を借りた土壌の再生、有機給食革命など、未来を切り拓く新たな試みも始まる。食の大分岐点を描き出す問題作。」

特別カバー表紙「ベストセラー『デジタル・ファシズム』に続く〈フードテック・ファシズム〉 ワクチンレタス、人工肉、ゲノム編集、デジタル農業…」「あなたの食べ物は知らぬ間に入れ替わっている- 巨大資本が仕掛ける強欲マネーゲーム、〈食の文明史的危機〉を描き出す衝撃作! *もう牛は殺さない『人工肉バーガー』 *粉ミルクはもう古い!赤ちゃんは培養母乳で *『ふるさと納税』デビューしたゲノム編集魚 *注射嫌いな子もOK〈ワクチンレタス〉 *アグリビジネスに乗っ取られた国連サミット *農地争奪戦と怒れるトラクター野郎たち *〈原子ムラ〉の次は〈ゲノム編集ムラ〉⁉ *牛は本当に気候変動の『犯人』なのか? *〈デジタル農業アプリ〉の真の目的とは *食が『特許』で支配されるディストピア *自然栽培のシャリで大成功した回転寿司 *水田という生命体は日本人の礎 *地球の砂漠化を防ぐにはバッファローを見よ! 再生の鍵は土だったー」

特別カバー表紙裏「気候変動問題を背景に、〈食のグレートリセット〉が始まった 食をめぐる世界市場のその裏で、今一体何が起きているのか?(…)歴史を紐解き、事実を丹念に拾い集め、各国の現場にいる人々の証言と共に、読者が未来を考え、選び取るためのツールを差し出してゆく。救世主に見えたものが、実はディストピアの予兆かもしれない。一つ確実に言えることは、〈食のグレートリセット〉が、こうしている間にも着々と進行していることだ。真実を知り、大切なものを守るのは今しかない。あなたの家の食卓が、知らぬ間にすっかり入れ替えられてしまう前に。(『はじめに』より)」

 

第1章 「人工肉」は地球を救う? -気候変動時代の新市場

・食品企業における〈遺伝子組み換え材料〉の使用は大きな社会問題になっている。人工肉を第三者機関による検査にかけた結果、インポッシブルバーガーからビヨンドバーガーの11倍のグリホサート系残留物が検出された。グリホサートに反対する市民グループMAAの創始者ゼン・ハニーカットは「グリホサートはわずか0.1ppbで腎臓や肝臓の中にある4000以上の遺伝子機能を変化させ、実験室のネズミに深刻な臓器障害を引き起こすことが分かっている成分。それがインポッシブルバーガーで11ppbというのは危険なレベルの数値」と語る(29p)。マサチューセッツ総合病院のシニア臨床栄養士エミリー・ジェルソミンは、ビヨンドバーガーもインポッシブルバーガーも塩分はとても高く、添加物や保存料が多くので要注意、と語る(41p)。

第2章 フードテックの新潮流 -ゲノム編集から〈食べるワクチン〉まで

・遺伝子組み換え技術と違い、ゲノム編集による遺伝子破壊は自然界で起きる変異と同等だと開発者側は主張し安全性の根拠になっている。日本は2021年9月ゲノム編集魚の販売開始を決定した世界で初めての国となった(63p)。ビル・ゲイツの支援を受けて急成長の、ギンコ・バイオワークス社が作る、細胞を遺伝子操作して食感や味まで自由に設計できる〈人工生物〉は食品業界の常識を間違いなく塗り替えるだろう(89p)。しかし、人間が神の手になってよいだろうか?と著者は疑問を投げかける。

第3章 土地を奪われる農民たち -食のマネー・ゲーム2・0

ビル・ゲイツウォーレン・バフェットジェフ・ベゾス等、億万長者たちは今こぞって各地の農地を買い集めている。遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの裁判、バイオマスを使たバイオ燃料生産のために大量の土地がいる(115p)。畜産農家を廃業に追い込む政府としてオランダ(127p)、農業辞めたら現金支給するイギリス(113p)、日本でも耕作放棄地や遊休農地など誰も使っていない農地なら転居許可制度を利用して太陽光パネル設置のためジワジワ侵食されてきている(141p)。

第4章 気候変動の語られない犯人 -“悪魔化”された牛たち

・2014年公開の映画『COWSPIRACY』は、畜産業は車や飛行機などよりも気候変動の大きな原因ではないかという疑問を持ったことから生まれた作品で、ハンバーガー1つ作るのに2500リットルの水が必要であることやアマゾンの森林破壊の91%が畜産業によって起きていること、米国民の水の消費量が年間3800億リットルなのに対し畜産業は12兆リットルも使っていることなど衝撃の事実を明らかにした(147p)。しかし草食動物と土は太古の昔から完璧な共生関係にあったことが抜け落ちている。計画的遊牧を行った土地は生産性が5割跳ね上がる(ジンバブエ生物学者アラン・セイボリー博士。161p)。要するに牛が問題なのではなく育て方に問題がある。北海道コンフェクトグループの長沼真太郎社長は「牛舎式だと4年と短い寿命だが放牧だと3倍の12年に延びる(動物福祉)。草はタダなので通常畜産で経費の半分を占めるエサ代や牛舎などの設備投資がかからない(経費節減)。牛を上手く使えば土壌の循環能力を再生させ温暖化ガスを土壌中に隔離できる(気候変動対策)。運動量も多くストレスが少ないため免疫力が圧倒的に高く感染症などの病気にかかりにくい(病気対策)」と4つのメリットを指摘する(174p)。SDGsに〈土壌〉という言葉がない(178p)。福岡正信氏の提唱した自然農法(不耕起、無肥料、無除草)は世界に影響を与えたが、残された時間が想像以上に少ない、テクノロジーの力が必須だと声高に主張する中で、ビッグテックによる農業分野への参入がスピーディに動き出していると著者は問題提起する(181~182p)。

第5章 〈デジタル農業計画〉の裏 -忍び寄る植民地的支配

・インドで進められていたデジタル農業計画、ビル・ゲイツの財団がデジタルグリーン車を通してインド政府に提供したデジタル農業プロジェクトはインドの農家と畑にカメラとセンサーと5Gの基地局を設置し、農民に無料配布されたアプリ搭載済のスマートホンを通して農場で作付けさせる全てのの作物情報やそこで使われてきた農法の詳細、先住民の伝統的知識に至るまで、全てはデジタルデータに変換されてゲイツ財団に回収される、デジタル版緑の革命が日常的に確実に合法的に近づきつつあった中、2020年9月、インドで新農業法が施行され、①民間企業と農民は地域公営市場を通さずに州を越えた農作物の直接売買が可能となり、②バイヤーと農民との直接契約のための法的ルールが提供され、小規模農民を保護していた政府の最低支援価格を撤廃し高額での販売が可能になった。だが誰のための法案かを感じ取った農民たちはデリーに向かって抗議活動を開始し2か月で1億人に膨れ上がりモディ首相は新農業法の撤廃を表明。多様性を尊ぶ伝統を持ちながらテクノロジーを使う際の軸をどちらに置くのかの選択に迫られているのはインドだけではない。日本がその選択を迫られている(205~211p)。

第6章 日本の食の未来を切り拓け ―型破りな猛者たち

・栃木県〈民間稲作研究所〉稲光光圀所長は農薬・肥料・草取り不要の有機農業伝道師として千葉県いすみ市と協力し日本初の100%有機米学校給食を実現した。慣行米との価格差は生徒一人当たり毎月169円でこれを行政が補助する(223p)。今治市はそれに先駆け80年代に食と農の街づくり条例を成立させ産地消給食を実施。今治市は米に次いでパンも輸入小麦に頼らず今治産小麦で作ったパンで給食パン6割を実現。2011年4月の法改正で成立した地方分権一括法は各地の条例で国の通知とは違うことが実現できることを保障した法律であることを山田正彦元農水大臣は全国に訴えている(230~232p)。高機能炭を使えば土壌は半年で再生できる(233~235p)。CYC社の炭化装置は有毒ガスを出すことなく高機能炭を誕生させる(235p)。高機能炭を活用し微生物により土壌を再生させる、まさしく完全な資源循環型社会を実現可能にする。微生物の数値の可視化の研究も進んでおり、立命館大学生命科学部の久保幹教授はSOFIXを開発し土の中から微生物のDNAを抽出し微生物の量を測定することに成功(240p)。奇跡のリンゴで知られる木村秋則氏に惚れこんだすし遊館の高橋啓一会長は自然栽培米で作ったシャリを食べてもらいたいと回転寿司経営を成功させる。平均単価1000円のところ2600円かかるが日本一おいしい寿司を出すとの意気込みで頑張っている(252~258p)。立正大学地球環境科学部環境システム学科の横山和成特任教授は土壌の生物学的肥沃度を数値から解析する指標システムSOILを立ち上げて土壌の多様性を上げるための指導を提供し始めている。世界各地の最高値を比較すると、日本の土壌は世界一。このかけがいのないわが国の資産が私たちに見えているだろうかと著者は疑問を投げかける(259~264p)。

第7章 世界はまだまだ養える -次なる食の文明へ

アメリカの一部の州では再生型農業への回帰が議論され始め、アルゼンチンでも同様に有機農業が増えている。エセックス大学環境・社会学者のジュールズ・ブレティ博士が2006年アグロエコロジーに基づく再生農法により生産性を平均8割上昇させたという報告を行った。ブラジルでも06年から17年の間に有機農地は12倍に拡大。種子の貯蔵に関して世界第5位の地位を誇る韓国では種子バンクとして10万の種子を保管している。緑の革命以降、多様性が激減しその96%が失われた今だからこそ、在来種の確保は食の主権を取り戻すために必要だ、韓国は在来種を手放してはならない(289p)。アグロエコロジーとテクノロジー、どちらの道を選ぶのか、私たちは壊れかけたこの世界で岐路に立つ(307p)。