一所懸命《下》 岩井三四二

2022年11月20日発行

 

渡れない川

 飢饉で飢え死にしそうな七郎は合戦の経験がなかったが、妻から急かされて槍持ちの希望を小木曽吉之丞に願い出る。敵襲に遭い幼なじみの弥太郎と一緒に逃げて木曽川の川べりに辿り着く。舟に乗るしかないが、6人は乗れない。弥太郎と七郎の2人は最後にやってきたから2人が降りることになった。どちらが先に舟から降りるかで喧嘩となり、かつて弥太郎に騙された七郎は弥太郎が再び自分を騙そうとしていることに気付いてそのことを口にすると頬を張られた。船上で喧嘩となり2人とも川に落ちる。すると舟は川の中に進み出し2人は取り残される。子どもの頃からの鬱憤がようやく晴らされた。ざまあみろと思いつつ、自分ももう助からないことを感じながら、弥太郎の悲鳴を満足感を感じながら川の中で聞いていた。

 

一陽来復

 一所懸命の後日譚。斎藤道三が息子の義龍と戦って敗死した事件を福光右京亮の視点で活写。

 

となりのお公家さん

 町場の長屋に流れ着いた中納言の医家がやってきた。陰陽師に見放された瘧で寝込む老婆に薬を処方し、人斬りの被害に遭った七郎の刀傷の止血をして薬を処方すると、手先はおぼつかない医家だったが、周囲の評価も上がってきた。期限に間に合わせなければいけない仕事を持つ大工の新右衛門は、職人は腕がなければ心意気だけではダメだという信条で手を抜かずに仕事をしてきたが、期限に間に合いそうもなくなると丹念に仕上げなければ何とか間に合うと考えを変えようとした。が素人なら大目に見られても職人はやはり隅から隅まで手を抜いてはならぬと思い直して再び仕事の鬼に戻った。