高橋源一郎の飛ぶ教室

1年目 前期 十九歳の地図

 イヤフォンをはずしたままで 2020年5月22日

  久米宏さんをラジオ番組に招いたとき、外部に繋がるイヤフォンをつけなかったことに驚きました。“縛られているみたいでイヤじゃないですか”と。なにもかも「ひとり」で対処しなければならない不安を感じることで、あらためてひとりで立ってどこかにいるひとりに話しかけていると気付いた、という。

 神様がいた! 2020年7月17日

  デビュー前の作家は、みんな、おそろしいほどに孤独。30歳で初めてある賞の最終候補4篇の1つに選ばれたとき、生まれて初めての読書がいたことに嬉しくて転びそうになった。稲村弘さんの歌集を新聞のコラムで取り上げると、稲村さんは「神様がいた!」と思ったそう。神様になったのは実はぼくだった、という。

 年に1度、向かい合う 2020年7月24日

  奥田瑛二さんの事務所兼住所が同じマンションのフロアにあった関係で時々遊びに行くようになった。奥田家では年に1度、二人のお嬢さんが父親の前でこれからの生涯をなにをして生きてゆくのかをきちんと話さなければならないという。父親として、かなわないと思った、という。

 抱かれる場所へ 2020年7月31日

  自動支援施設「抱樸館」は、再びはじまる場所。傷つき、疲れた人々が今一度抱かれる場所として命名された。原義は「荒木を抱きとめること」。荒木であるが故に刺々しい。そんな樸を抱く者たちは傷つき血を流す。だが傷を負っても抱いてくれる人が私たちには必要なのだ、と。

 十九歳の地図 2020年9月18日

  19歳の宇佐美りんさんが書いた『かか』は19歳の浪人生と母親との葛藤を描いた物語。中上健次の初期の作品『十九歳の地図』の主人公も19歳の浪人生。誰にでもある時期だが、羨ましく感じる、という。

 

1年目 後期 世界がひとつになりませんように

 ことばが届く 2021年2月19日

  書きながらいつも不安だった30歳の時、新人賞の最終選考に残るものの、落選。次にまた吉本隆明さんに手紙を書くような気持ちで書いた小説も受賞とはならず佳作扱い。だが、吉本が文芸誌で「まったく新しい世界の到来」との評論を書いてくれたおかげで衝撃を受けた。ことばは届くことがあるのだ、と知った。という。

 

2年目 前期 その人のいない場所で

 

2年目 後期 いつもの道を逆向きに歩く

 いつもの道を逆向きに歩く 2021年12月3日

  まったく同じものなのに、少し角度を変えただけで、見知らぬものに変身する。いつもと同じ道を歩いて、その人を見ているだけで、ほんとうはなにも見ていない、なにも知らないのではないだろうか。いや、人だけではなく、ぼくたちは、目の前にあるものを、ほんとうにきちんと、どの方向からも見たことがあるのだろうか。

 犀のようにただひとり進め 2022年2月25日

  犀は群れない動物で、ひとりで生きるのだそうです。性質は鈍重で、視力も弱い。けれども、嗅覚と聴覚に優れ、自分の鼻先の一本の角をまるで目印のようにして、周りの世界を確かめながら、ゆっくり、ただひとりで前へ進んでゆくのです。

 

終わりのことば

 

特別付録 さよならラジオ

 

 ほんとうの終わり

 

ラジオの冒頭3分、ひとりでおしゃべりする原稿を集めて1冊になった本。いつの間にか聞き入ってっしまう、そんな声のようなことばを書きたいと思っている著者のエッセイでもない、やはり「ラジオ」みたいなもの。ちょっぴり面白い。