螢草《下》 葉室麟

2017年6月10日発行

 

市之進は投獄され、屋敷も召し上げられた。市之進から2人の子供のことを頼まれた菜々は、市之進から託された茶器を質屋のお舟に預けて再び金を工面して廃屋のような家を借りて慎ましい生活を始めた。実家から野菜を届けてもらい、自らも草履を編んで、大八車を引いて露天で売って生活費をねん出した。市之進の嫡男正助には剣術を身につけさせようとして自分の稽古の代わりに五平衛に嫡男の稽古をつけてもらい、近所に住む儒学者の節斎には2人の子に教育を授けてもらった。ヤクザ者の権蔵は勝手に露天を出した菜々に場所代を支払わせようとしたが、謂れのない金は払わないとする菜々の態度や娘とよの姿に感心し、苦しい生活を送る菜々たちを助ける側に回った。そんな中、父の遺品の和歌集から不正の証拠となる証文が出てきた。市之進の親友と思っていた仙之助は寝返って轟の手駒となっていたため、それと知らずに証文が見つかったことを仙之助に伝えてしまった。仙之助は自らの裏切りで新之助が窮地に陥ったことを悔やみ、轟に証拠のことを告げなかったが、仙之助の態度から証文が見つかったことが轟にバレてしまい、証文は燃やされてしまう。殿様のお国入りに合わせて御前試合が開催されることになり、菜々はこれに参加し、そこで轟に仇討ちをしようと、五兵衛、お舟、節斎、権蔵に打ち明けた、相当な剣の使い手の轟を相手にするのは無謀だと皆が止めたが、菜々の決心は揺るがない。2か月間、五兵衛は轟の最初の一撃を回避する特訓を施し、遂に決戦の当日を迎えた。菜々は轟との対決で、見事に轟の一撃をかわし、なんと燃やされたはずの証文を藩主にその場で献上するという奇策に出た。轟に追放の処分が下り、屋敷を取り戻し市之助も戻って来ると聞いて喜びの絶頂にあった菜々だったが、市之助の親族から殿の声掛けで家老の姫を妻に迎える話が進んでいるため、市之助のために姿を消せと命じ、菜々はやむなく実家に帰り、再び野菜を売る日々を送った。ある日、正助ととよが大八車を押すのを助けにやってきた。2人から母上と呼ばれ、その後ろに市之助の姿を見た菜々の目には涙がとめどなくあふれてきた。