深川安楽亭 三十ふり袖 山本周五郎

2005年4月27日第1刷発行

 

裏表紙「抜け荷の拠点、深川安楽亭に屯する無頼者達が、恋人の身請金を盗み出した奉公人に示す命がけの善意『深川安楽亭』、女の哀しさが結末でめでたく幕を閉じる心温まる物語『三十ふり袖』を収録。」

 

深川安楽亭

抜け荷の拠点の深川安楽亭には命知らずの無頼な若者がたむろしていた。富次郎はおきわの身請金を都合し損ねるが、安楽亭の客から五十両という大金を授かり、安楽亭から初めてきれいなままで出て行った。客はかつておつじと世帯をもって紀の国屋という店の帳場を開き3人の子をもうけ穏やかな暮らしをしていたが、帳場の金に20両ほど穴をあけ、おつじは夫婦一緒に出直そうというが、3年を期限に木出で一儲けする方を選び、5年が経って二百両を稼いだので江戸に戻ったがおと年の暮れに子を伴れて身投げして死んでしまったために要らなくなった金だという。「女房や子供が死んでしまって、百や二百の金がなんの役に立つ、金なんぞなんの役に立つかってんだ」この客は二度と安楽亭へ現れなかった。

 

三十ふり袖

器量が良くなく27歳になったお幸に旦那の妾にならないかと声をかける飲み屋の「みと松」夫婦はこの話がうまくいけば世話料が貰えるという裏話もお幸に告げる。旦那は一日置きに来た。家を用意し十分なお手当も渡した。しかし囲い者という僻みからお幸の顔はいつも暗い。お幸の母がお幸に諭しても変わらず、素敵な夜具や振袖を贈ってもお幸は変わらなかった。ある時、みと松の女房が旦那には妻がいないことを告げ、それすら知らないお幸の薄情さを咎めた。お幸は申し訳なさで一杯になった。三十ふり袖と言われたって良いから、旦那にまた来てくれるよう言付けした。