岬 中山健次

1978年12月25日第1刷 2005年8月1日第25刷

 

裏表紙「この作家自身の郷里・紀州を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみを、鮮烈な文体でえがいた芥川賞受賞作品。この小説は、著者独自の哀切な旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品とされ、広く感動を呼んだ。表題作の他、『火宅』『浄徳寺ツアー』など初期の力作三篇を収める。」

 

黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」「岬」という4篇で構成されている。

 

表題の「岬」から読んでみた。

24歳の主人公の秋幸は、親方の下で働いている。親方は姉美恵の旦那で、親方の妹光子の亭主安雄も親方の下で働いていた。親方の一番上の兄古市夫妻は光子の父親の浜の家に住んでいた。秋幸の実の父は、母の死別した前夫でも再婚相手でもなく、人から土地を巻き上げ裕福となり若い女を囲っていると言われる男だった。秋幸は元々は義父の土方の組で働いていたが、ギクシャクして現在の親方の方に移った。秋幸には母が前夫との間で設けた兄がいた。が首を吊って死んでしまった。秋幸は土方の仕事が好きだった。ある日、古市が安雄に庖丁で刺されて死んだ。24歳の兄がかつて庖丁を持ち出し、母と当時12歳の秋幸を殺そうとしたことがあった。兄は自分が母から捨てられると思い込んでいた。ところがその兄が家の庭の木に首を吊って死んだ。あれからちょうど12年経っていた。葬儀の翌日から姉美恵は風邪と疲労のため寝込んだ。名古屋からもう一人の姉芳子が父の法事のためにやってきて帰って行った。秋幸は、母からも姉からも遠いところへ行きたい、死んだ兄からも自由でありたかった。あの男の血が半分流れている。その雄と決着をつけて、あいつらに報復してやりたかった。勝手気ままにやって子供にすべてツケをまわすおまえらを同じ人間だと思いたくなかった。薄暮の新地にやってきた秋幸は、座敷に上がり、今は娼婦として働いている、あの男が別の女に産ませた妹と姦した。報復してやりたかった。交わる中で愛しさを感じ始め、同時に、いま、あの男の血があふれる、と思った。

 

母と子、姉と弟、兄と弟、そして父と子の関係が、カオスで混沌としている。血に抗いつつも、結局、血のせいか、薄汚れた世界に踏み込んでしまった。この後、父と同じように生きるのか、それとも父に抗って生きていくのか。読者の想像にお任せしようということか。