やさしい猫 中島京子

2021年8月25日初版発行

 

スリランカ出身の青年クマラと出会って結婚した母の奥山ミユキには一人娘のマヤがいた。マヤは3歳で父を亡くし、小さなアパートで母と二人暮らしだった。保育士のミユキは震災後にボランティアとして東北に赴きクマラと出会う。ミユキより8歳年下で自動車整備工をしていた。18歳で来日し日本語学校と専門学校で学び働いていた。マヤは当時小3。二人は1年後に再会し次第に距離が縮まり、ミユキが緊急入院した時はクマがマヤの面倒を見た。その後順調に二人の関係は発展し結婚の約束をしたが、勤め先の会社が倒産して仕事を失ったクマはミユキに本当のことが言えず、一時ギクシャクして冷却期間を置く。それでもマヤが中3の時に2人は無事婚姻届を提出した。ところがクマは在留期間が切れていたため品川の東京入国管理局に収容され、強制送還されるかもしれない立場に突如陥る。在留資格の相談のために入管に向かったのに点数稼ぎの警察に見つかってしまった。退去強制処分となれば5年間は再入国できない。入管に収容され自由を奪われ、仮放免申請を出してもなかなか通らない。ミユキと婚姻届を出せば配偶者ビザ永住資格を得られるはずだったのに、入管の審理官はオーバーステイになって結婚しているから偽装結婚だと疑ったために特別在留許可も下りなかった。最後の手段で弁護士に相談して裁判を起こすが、確率は高くない。マヤと親しくなったクルド難民を両親にもつ少年ハヤトは日本で生まれ育ちながら仮放免状態が続いており移動から仕事から何から何まで制限された中で生きていた。ある時、施設でクマさんが血圧200以上で倒れ救急車が呼ばれたのに入管は救急車で運ぶのを拒んだ。再びクマさんが200以上の血圧で倒れたのがきっかけで仮放免が認められた。施設内の技能実習生への対応が余りにひどくてクマさんが昂奮したのが偶然良い結果につながった。後半は裁判が粛々と進み、ミユキやマヤの証言とクマ自身の証言が認められ、偽装結婚などでなく愛情に基づく結婚であることが認められ、クマさんは無事に施設から出ることができた。在留資格を獲得して無事に家に戻ったクマさんは1年以上の収容生活で何かを失ったようだったが、ミユキの妊娠が分かり、元気を取り戻し、前に働いていた自動車整備工場に再就職した。それにしても、オーバーステイ外国人は日本人と結婚すれば配偶者ビザがもらえるのが昔の扱いだったのに、今はその在留特別許可数が10年前と比べて85%減っているとは驚きだ。タイトルの「やさしい猫」というのはクマさんがマヤに話したスリランカの童話。お父さんネズミとお母さんネズミと3匹の子ネズミがいたが、あるときお父さんとお母さんは猫に食べられてしまい、子ネズミたちは両親を探しに家を出るが、途中でその猫に会い、泣いている子ネズミから事情を聞いた猫は、この子たちの親を食べたことを後悔し、自分の生んだ子猫と共に育てたという話。日本で暮らす外国人のことについて何も知らない私たち日本人は、外国人の境遇のことをもっと知らなければ、やさしい猫にすら劣るのでは?ということなのかもしれない。