2013年2月6日第1刷発行 2013年9月4日第6刷発行
どら焼き屋「どら春」で雇われ店長千太郎は日々どら焼きを焼いていた。ある日徳江という指が曲がった老婆が店に訪れた。働きたいという老婆をあしらう千太郎だったが、老婆が作ったあんの味がとても美味い。50年あんを作り続けてきたという。千太郎は徳江が時給200円で良いというので雇うことにした。徳江からあんの作り方を教わり、千太郎の店は大勢の客が訪れ、営業時間も長く伸ばした。ある時千太郎は働きづめで疲れて休んだが、徳江は一人で店を開けてしまった。以来、徳江には自由にさせた。ある時、千太郎は徳江に指のことを尋ねたが、徳江は病気でとだけ答えた。店のオーナーが徳江がかつてハンセン病で客の噂になっているのを聞きつけて、千太郎にうつるかもしれないからやめてもらうようにと言う。確かにハンセン病の診療所のある町の名前は徳恵の住所と聞いた町名だった。千太郎は自分でハンセン病について調べたが今や人に移ることはない病気だと知った。どうするか決断がつかない時間だけが経過した。ところが売上が激減していった。再度、オーナーから徳江を辞めさせろと強く言われた。徳恵は自らを店を辞める言い出した。千太郎は酒に溺れるようになったが、お店の客だった中学生のワカナちゃんからカナリアを飼っていいと徳江に言われたからと言って、ワカナちゃんに誘われて一緒に施設に出掛けた。徳江から過去の彼女の人生行路を聞いた。14歳の時、家族と別れて隔離されて施設で生活したこと、夫と結婚したが、夫は心臓の病で亡くなったこと、夫が元々横浜でお菓子屋で働いていたこと、家事が起きても消防車は来てくれないし犯罪が起きても警察は来てくれなかったこと、法律が変わって故郷にみな帰れると思ったけれども引き取り手はほとんど現れなかったことなどを聞いた。千太郎は40年以上も前に治っているのになぜという思いが募った。千太郎の下に徳江から手紙が届き、千太郎も自らの過去を打ち明ける手紙を返信した。オーナーは店の売上が落ち込んだままだとどら焼き屋を締めてお好み焼き屋にチェンジするという。千太郎は徳江のアドバイスもあって塩どら焼きに挑戦したが、塩の塩梅は難しかった。千太郎はどら焼き屋を辞めた。夢で桜の塩漬けを見た。徳江は肺炎で亡くなったのを後日千太郎は知った。千太郎は徳江が亡くなった後に千太郎宛の手紙を受け取った。夫は強制的に断種されたことやもっと早くに自由を得たかったという徳江の心情が綴られていた。