霧笛荘夜話(上) 浅田次郎

平成16年11月30日初版発行

 

第一話 港の見える部屋

足の不自由な老婆が霧笛荘の一室の鍵を開け、その部屋のことを語り出した。その部屋はかつて星野千秋という女が住んでいた部屋だった。自殺未遂をした27歳の星野千秋は霧笛荘に辿り着き、霧笛荘に住む美しい眉子と出会い、眉子の隣の部屋で生活を始めた。眉子は千秋に自分が勤めるナイトクラブで一緒に働くことを勧め、自分の客で下品な太った流行らない医者を紹介した。千秋はその医者と関係を持ち睡眠薬を手に入れて服薬自殺を図ったが大量に飲み過ぎて吐き出し未遂に終わった。死ぬことばかり考えていた千秋だったが、この時を契機に生きることを考え始めた。その矢先、今度はその睡眠薬で眉子が自殺してしまった。老婆は千秋が医者と結婚して子供をもうけて今では港の公園で親子で散歩していると教えてくれた。老婆は次に眉子の部屋を紹介した。

 

第二話 鏡のある部屋

老婆は眉子の部屋の鍵を開けた。主のいない調度品が整然と並んだままだった。ベッド、テレビ、洋服箪笥、立派な鎌倉彫の姿見が置かれていた。尾上眉子(吉田よし子)は美貌の持主で資産家の御曹司と見合い結婚し2人の子供に恵まれた。ある時、女子大のクラス会に参加した。きらびやかな社交場となっていた。地味な服装だったよし子はかつての友人が天然記念物扱いした。ある日、子どもたちとデパート出掛けると、華やかな装いの別人に変身し、今まで来ていたスーツやバックや靴を全て捨ててしまった。子どもたちは母に気付かなかった。そのまま子供達をデパートで放棄し、家を無断であけ新しい人生を歩み始めた。霧笛荘に住み始めると隣には人の好いヤクザの鉄がいた。分不相応に牡丹の図柄を施した赤い鎌倉彫の鏡台を買った。ホステスとして勤め始め何人もの男に抱かれるたびに尾上眉子が確立していった。ある日、離婚を求める夫が現れ、手切れ金を渡される場に鉄を連れていく。鉄夫は幸せの青い鳥を探しに旅に出たっきり帰り道がわからんくなったんじゃシャレになんねえと告げ、眉子はひとりぼっちになった。老婆は次にヤクザが住んでいた部屋を紹介した。

 

第三話 朝日のあたる部屋

人の好いヤクザの佐藤鉄夫の部屋は午前中だけ陽が当たる。鉄夫は兄貴分の武兄に騙されて身代わりで殺人罪で服役したが、それでも兄貴を慕うほどお頭が悪い。鉄夫は霧笛荘の上の階に住む四郎からコンサートチケットを捌くのを頼まれると余計な分まで購入してやる面も持っていた。武兄から頼まれても覚醒剤の運び屋だけは断る鉄夫だったが、そうと知らずに四郎が引き受けたのを知ると、四郎の代わりに現場に現れて身代わりで逮捕され8年の実刑判決を受けた。後日、武兄は蜂の巣になって殺されていた。