蟹 河野多恵子 芥川賞全集第6巻

昭和57年7月25日第1刷

 

第49回昭和38年上半期

肺を悪くして房総の海岸沿いで転地療養をしていると悠子はすぐに療養の効果が現れた。そこに夫の弟夫婦がじきに小1になる息子の武を連れて見舞いにやって来た。砂浜で貝殻を集めていると武は蟹が無くなったと騒ぎ出した。貝殻を押し広げると、真っ白に乾燥した細い蟹の脚の折れたのが2,3本出て来た。悠子は、明日生きている真っ赤なハサミの蟹を捕ってあげるという。明後日やって来る夫の梶井に2週間ぶりに会うというのに気の重さを感じ武を残って貰いたかったからだった。武を引き留めるのに成功した悠子は武と一緒に泊まった。翌日、海辺で蟹を探す2人だったが、蟹はどこにも見当たらない。昨日発見したのが砂地だったことを思いだして、砂地で渉猟したが見つからない。海岸にいた籠を抱えた若い女に蟹がいないか訊くと、山にいるとの答だった。この辺にはごみみないなのしかいないとのことだった。明日磯遊びに行くのを夫に相談した方がいいのか悠子は悩んだ。

 

磯でしか生息していない赤いハサミの蟹を、見つかるはずのない海辺で探しても、そりゃ三つからないよね。そんなことをぼんやり考えながら、あまり会いたくない夫にそんな話をするのがちょっと憂鬱になっている妻の描写を、丁寧なタッチで描いた作品、ということなんでしょうかね?でも、なんで芥川賞が受賞されたのだろう?