人新世の「資本論」 斉藤幸平

2021 新書大賞第1位 16万部突破

 

文句なく、内容的には、抜群に面白いです。多くの方にお薦めしています。

ただし構成的に難があると思います。最終章のある「バルセロナ宣言」、要は「気候緊急事態宣言」の内容は、冒頭に書いて欲しかったです。この本の冒頭は、SDGsは「大衆の阿片」である!から始まっていて、この社会への喧嘩の売り方は、インパクトはそこそこあるけれど、日本を含め、なかなか受け入れられないだろうなあと思わせながら、ずっと読まされる感があります。

確かに、資本主義が「外部化」「不可視化」により、格差の問題を殆どの人に気付かせることなく富の偏在を生じさせている巧妙な仕組(経済成長と環境問題を両立させることは実は不可能である)であり、そのため残虐な結果をもたらしていることの説明や、現在の「帝国的生活様式」を維持したまま資本主義を続ければ近い将来人類は破滅するなどの説明は一定程度必要だと思います。またマルクスが使用価値より価値を重視する資本主義の致命的な欠陥を指摘していたこと、また晩年のマルクスが指摘していた意味をマルクス主義者が見落としていたことも新しい発見でしょうし、直近のピケティの主張と命脈を通じているとする著者の主張を展開するのも必要でしょう。でも、結局、具体的にどうすればよいのか?という読者がずっと抱え続けている疑問に直接答えるのが328頁になって出てくるのは、かなりしんどかったです。

バルセロナ宣言にあるような「気候正義」を唱えて、今すぐにでも、日本の政治家たちも勉強して、即刻、やれることから手を打つべきだと思う。大都市がこぞってこの運動に乗り出せば、一気に地球規模で広がる可能性があるのだから。

例えば、ポルトガル二酸化炭素排出量を上回るCO2を排出しているサソール社における石炭から人造石油を精製する過程での二酸化炭素排出禁止の仮処分を申請するだけで、物凄いインパクトがあると思います。是非とも、一刻も早く、この「バルセロナ宣言」、「気候緊急事態宣言」=「脱成長型社会」(経済成長型との訣別)に連なる世界的な動きを、メジャーなものにしてほしいと切に念願しています。