静かなドン ショーロホフ 原久一郎・竹森一男訳

1968年1月初版発行 1987年10月第16刷発行

 

主人公の1人、グリゴーリイは、最終盤で「どっちが、なにが正しいのか」という内心の矛盾撞着を独り言ちる。国内が戦争・内戦に巻き込まれ、コサックの師団長として、次から次へと理不尽な境遇に巻き込まれた、一人の独白が胸に響く。戦争は何のために起きるのか?起こるのか?人間はどうあるべきなのか?答えはない。そんな中でのグリゴーリイの独白だ。

もう1人の主人公、アクシーニヤもまた、相次ぐ戦争の中で人生を翻弄されて生きていく。隣家のコサックのステパンの妻でありながら、グレゴーリイとの三角関係に悩み、次にエブゲーニイ・リストニッツキイに捨てられ、またステパンの所に戻っていく。

終盤は、グリゴーリイの妻ナターリアが死んでしまい、グリゴーリイの兄ペトロの妻ダーリアが次々と死んでいく中で、グリゴーリイが実家に運ばれて、誰もが死体となったグリゴーリイだと思ったらチフスに罹ったグリゴーリイだった。1か月ほどして回復すると、子供相手から「とうちゃんは戦争で人を殺したの?」と聞かれ、答えられないグリゴーリイ。

絶えず全ての場面で、ドンという地域の自然描写がなされている。自然の中で、勝手に戦争を起こし、愛憎半ばの中で人々が生きていく。革命と半革命の中、互いに白ブタ、赤ブタとののしり合い、物語が進んで、最後にグリゴーリイもチフスで死んでいく。「運べ・・死ぬまで」という言葉を残して。

ショーロホフは、1965年、60歳でノーベル文学賞を本作で受賞する。