エマソン選集2 精神について 入江勇起男/訳

昭和36年6月1日初版発行 昭和46年5月15日8刷発行

 

訳者あとがきに、エマソンの生涯が簡潔にまとめられている。

エマソンの家柄は五代にわかって牧師をつとめたニューイングランドの名門。

エマソンが8歳の時に父が42歳の若さで亡くなり、8人兄弟のうち兄を除いて若死にした。

最初の妻エレンは1年4カ月後に亡くなり、次の妻との間にもうけた長男が5年3カ月で亡くなる。苦闘と涙の生活がエマソンを深めた。単なる楽天主義者、夢想家として眺めている世人は血と涙の人エマソンを知らない。彼が大自然を愛するのも、人を頼るな、教会の軽を恐れるな、自己を信頼せよと叫ぶのも、みんなそこにつながっている。

エマソンの根本原理は、世界は生ける神のものである、という確信である。

エマソンの神は、イエス以前より在り、キリスト教を信ずる者にも信じない者にも、善き人の上にも悪しき人の上にも、陽光・慈雨のようにいのちを恵む万人の愛の神であって、いっさいの人間のことばによる教義も教理も、いかなる教会の伝統も伝説もどうすることもできないいのちの大元である、と説明されている。エマソンは自分は何よりもクエーカーだと告白しているが、神と人間とを直結させる「内なる神」の思想は、外的な教会組織や信条に権威を認めず、人間の自由と尊厳を外的制約から解放しようとする思想である。これは本来万人の恵まれている特質であると見、その事実は東西古今の聖賢によって共通に立証されていると見ている。この信念からエマソンは東洋・西洋を一つに結び、宗教宗派間の人為的障壁を打ち破り、宗教・文学・科学間の一切の人為的障壁を打破している。彼の「自己信頼」は宗教的な根本の態度を言ったものであって、神への帰依を意味し、小我の否定を意味することに注意しなければならない。

その上で「精神について」で取り上げた9つの随筆について簡潔にそれぞれのエッセンスを紹介し、特に「神」はエマソン哲理の奥義を示す書と述べている。