世界を動かす共感力 ニュージーランドアーダーン首相 マデリン・チャップマン 西田佳子/訳

2021年11月30日第1刷発行

 

日本の全政治家、特に若い国会議員に是非読んで欲しいと思う。

 

表紙裏に「迅速な判断、丁寧な発信で、ニュージーランドでゼロコロナを実現したアーダーン首相。彼女は2017年、37歳で、首相に就任。2019年、ニュージーランド史上最悪のモスク襲撃事件に鮮やかな手腕で対処、犠牲者に寄り添った。2020年に単独政権を獲ると多様性に富んだ組閣をする。産休をとった世界初の首相で当初は事実婚。首相になりたくなかった彼女が首相になったのはなぜか。卓抜した判断力、コミュニケーション力、共感力の源は何か。世界が注目する新しいタイプのリーダーに迫る評伝!」とある。

真面目で生徒会活動に熱心だったアーダーンの高校時代、大学時代にLGBTQIA+の問題に関心を持ち、これらの権利擁護に反対する教義を持つモルモン教を離れ、女性初のクラーク首相の下で働くようになり、国際社会主義者青年同盟(IUSY)のメンバーとして活動することで人脈が広がり、総代表に満場一致で選ばれた。労働党の候補者リストに28歳で名前が乗り、比例復活で初当選を果たす。28歳のニッキー・ケイとは同じ選挙区出身のライバル議員として切磋琢磨する。が、アーダーンはテレビに毎朝のように登場し好感度を高めていく。それでもアーダーンは3戦3敗する。労働党の中では女性議員のトップに押され副党首になるや、党首が辞任したことで党首に昇りつめ、最初のスピーチでも堂々と記者一人一人の名前を呼びながら受け答えをする姿勢に高感度がグングン上がっていく。それまで労働党自体の人気自体が低迷していたのがアーダーンの登場によって急上昇し、選挙戦ではSNSを通したライブ配信を週1で実行し、国民を相手に直接語り掛けて成功を収め、低迷していた労働党を大躍進させる。キャスティングボードを握るピーターズは国民党ではなく労働党と手を組む旨宣言し、遂にアーダーンは首相となった。就任100日で実行する政策を公表し、マリオの生活を知るためにワイタンギで5日間生活してマリオに寄り添う姿勢を鮮明にした。帰る時の方が人気者になった初の首相である。ヨーロッパ全土を周り各国リーダーと会う。妊娠を公表し産休を6週間取り(その間ピーターズが首相代理を務める)、出産直後にインスタグラムで報告する。

2019年3月15日、クライストチャーチニュージーランド史上最悪のテロ事件が発生する。すぐさま銃規制法改正を明言し、また死者や遺族、家族、全国民に寄り添う記者会見を行う。また犯人に名を与えないとして名前を一切言わない。正義も敢えて振りかざさない。憎しみではなく愛を、厳しさではなく優しさを訴えかけた。遺族の前で直接に語り掛け、病院に行って負傷者にも直接語り掛ける。悲しみに沈む市民を両腕でぎゅっと抱擁する。カメラマンが撮影したこの時の写真は全世界に配信され、世界に感動を与えた。残虐な動画をSNSで配信することをどうやったら規制できるか。そのためにアンダーソンはインターネット関連企業のCEOと各国企業を集め、パリにてアクションプランを作成する。

またニュージーランドでは幸福予算が開始された。幸福度を測るだけではなく予算編成にそれを組み込む世界初の取り組みだ。アメリカの大手新聞紙も絶賛し他の国々も追随すべきと述べられている。

コロナ対応の適切さは台湾が優れていると思っていたが、ニュージーランドはそれ以上だ。早くレベル4のロックダウンに踏み切ったおかげで感染者ゼロを3月中旬には実現し、それをしばらく続けた。その結果、経済活動が再開されている。完全に国民党よりも労働党の支持率が上回り単独政権を樹立した。同時に102日ぶりに感染確認された時点ですぐにレベル3のロックダウンを発令し再び抑え込みに成功する。それでも大麻合法化法案に対しアーダーンは自らの意見を最終まで明らかにせず、国民投票直前になって賛成の意見を出すと遅すぎると賛成派から酷く非難された。中途半端な意見表明は抜本的改革を実現してくれるはずと信じた人々を落胆させた。新組閣は性的多様性を世界で最も確保した人事だと言われている。

 

現代において、最も尊敬に値する政治家の1人だと思う。ニュージーランドだけでなく、いずれ世界のリーダーに成長していくに違いない。