泣虫小僧 林芙美子

1976年3月初版発行 1987年8月第10刷発行

 

母親にすてられて親戚の家をつぎつぎにたらいまわしにされていく啓吉少年の悲しさを描いた小説。啓吉少年を中心に描き分けられているが、いずれも経済的に豊かとはいえない階層の人々の、(母親)貞子、寛子、蓮子、菅子の4人の姉妹の生活とともにえがかれている。

突然、母親が啓吉を学校に尋ね、一人長崎に行くので寛子叔母さんの所で暮らしてくれと言い、啓吉にゆで卵が入った弁当と手紙と十円札の入った封筒を託してすぐに旅立ってしまう。啓吉は家に帰って母の名を呼ぶが母はやはり旅立った後だった。こんな理不尽な母親も珍しいのだろうが、時代が時代だっただけにそういう女性はそれなりにいたのだろうか。冒頭に蟋蟀が登場し、所々で蟋蟀が登場するもの悲しい物語。