昭和36年10月1日初版発行 昭和44年3月1日3刷発行
彼の美学思想は彼の中心思想から派生したものであるといえるが、その中心思想は物質と精神の象徴関係を想像力により把握することから出発した。
以下、気に留めた箇所を抜き書きする。
霊感
ナポレオンはいった。「わたしが戦略をたてる時ほど臆病な者はいない。わたしは、あらゆる危険、あらゆる災難を過大視する。全く苦しい動揺のなかにいるのだ。しかし、内心はそうでも、わたしの周囲にいる者たちには、沈着するもののように見えるのだ。わたしは妊婦のようなもので、いざ決心したとなれば、一切を忘れ、ただこの一事を成功させたいと願うのだ」
老総長クウィンジー(1829-45年ハーバード大学総長)のすばらしい思慮を、わたしは忘れもしないのであるが、彼は、翌朝の勉強の準備をしてからでなければ、決して床につかなかったとわたしに話してくれた。われわれの好調な日々には、毎朝、新しい思想が、秩序をもった精神を待ちうけているのだと思う。このために、著しく思索的な人びとは、ピタゴラスの昔から今日にいたるまで、毎日、孤独の時をもち、自分の精神と対面して、この精神がどういう託を伝えようとするかを知ろうとした。人生や精神についての新しい考えが、われわれに喜びを与えるとするならば、人生と精神についての新しい表現も、喜びを与えるのだ。なぜだかわからないのだが、古い見解が正しく表現される時の喜びは、新しい思想に対する喜びに劣らないのである。