小さな王国・海神丸 谷崎潤一郎、鈴木三重吉、野上弥生子

2009年2月23日第1刷発行

 

小さな王国谷崎潤一郎

 他の生徒から尊敬される餓鬼大乗の話か、と思って読み進めていくと、この餓鬼大将は自分の名字を書き入れた貨幣を発行し、しかも先生が品物薄に困ってこの餓鬼大将の軍門に下ってこの貨幣経済に参加するため家来になるという、無茶苦茶なお話。タイトルにあるとおり、ちょっとした王国が出来上がっている。貨幣が発行できさえすれば子どもの世界でも国が成立する、ということをもって、著者は、この時代にきっと何か言いたいことがあるんだろうなあと思うが、何を言いたかったのだろうか?

 

「おみつさん」鈴木三重吉

恐らく小学校低学年の主人公が祖父母と一緒に同居(父親は事情があって遠くに住んでいて、母親とは死別したと思われる)している時に、以前、出入りしていたおみつさんが主人公と久しぶりに再会し、近くにおみつさんが住んでいたため、毎日のように主人公の家に来てくれることになったことに主人公が心の底でうっすらと喜んでいるというようなお話。でもちょっとわかりにくい感じがする。

 

海神丸野上弥生子

 船上で食べる物が何もなくなってしまい、ひもじい思いが限界を超えると、善し悪しの判断を超えて、行きつく究極は互いにこれまで苦楽を共にしてきた船員を殺して食べてしまおうという、身の毛もよだつ話だ。大岡昇平の「野火」にも戦火の中で人食いのテーマが扱われていたが、戦争はなくとも環境次第では人食いが起こり得るという、これまで考えもしなかったことを女性作家が「野火」以前の遥か昔に小説化していたことに最も驚いた。