LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の戦い ジェローム・ポーレン 北丸雄二訳(その2)

2019年12月21日第1版第1刷発行

 

第5章 1970年代 街へ出よう

     ゲイ解放戦線、ゲイ活動家同盟が誕生。1970年、同性婚が禁止されていることに対する最初の異議申立がミネソタ州ミネアポリスで起きる。最初は認められなかったが、2度目の挑戦では他方が女性だと勘違いして結婚許可証が発行。ミネソタ州は裁判を起こさず完全無視を決め込んだ。「レズビアンとゲイたちの親と家族と友だち」(PFLAG)が立ち上げられ、今日、LGBTを理解し支援できるようアメリカと世界に計350以上の支部を持つまでに発展。DMSでは1970年当時、同性愛を精神疾患として記載されていたが、1973年、DMSの疾患リストから同性愛を外す。レズビアントランスジェンダー・コミュニティ間の亀裂が拡大。1977年11月、ゲイのハーヴィー・ミルクがサンフランシスコの市政執行委員の選挙で最高得票を得て当選。ゲイライツ法案を可決させる。が、翌年凶弾に倒れる(その後、この犯人が第一級殺人罪ではなく古殺罪で有罪となったことにゲイ・コミュニティは爆発しホワイト・ナイトの暴動が起きる)。小学校教諭だったトム・アムアーノは自らがゲイであることをカムアウトし、LGBT教職員にも雇用保障規定を追加するよう働きかけ、市教委の長にもなり、サンフランシスコ州下院議員にも当選。

 

第6章 1980年代 エイズと保守の巻き返し

     人気俳優のロック・ハドソンが1985年の夏自らがゲイでHIV陽性をカムアウトしその空10月2日に亡くなる。ハドソンと友人だったレーガンは2週間後に初めて公の場でエイズという単語を口にする。既に15000人がこの病気で死んでいた1986年6月30日、連邦最高裁憲法がゲイやレズビアンの米市民が親密な個人生活を持つ権利を保障していないと断じる判決を下しLGBTコミュニティに強烈なパンチを食らわせた。各地で抗議集会が行われ、ラリー・クレイマーをはじめ初期のリーダーはACTUPを立ち上げ1987年10月、レズビアンとゲイの権利を求めるワシントン国民大行進(首都に終結した人は65万人を超えた)を実施。10月11日は全米カミングアウトの日と定められる。エイズ対策に無策の政府やLGBT差別禁止法の成立を阻もうとしていたオコナ―枢機卿への大胆な抗議活動が巻き起こる。

 

第7章 1990年代 揺り戻し、そして勝利

     クリントン時代の1995年4月25日、80万人のLGBとアライたちが首都に終結LGBT公民権が後退を余儀なくされたアメリカを尻目に、1989年にはデンマークで同性ユニオンが世界で初めて合法化し、続いてノルウェイスウェーデン南アフリカ共和国が続く。有名な俳優サー・イアン・マケ―レンはゲイライツ組織の共同設立者で、英国KGBTコミュニティのリーダーになり、1991年オープンリー・ゲイ男性として初めてナイトの爵位を授与された。その中でLGBTの団体・組織が爆発的に誕生し多様性を帯びていく。テレビ番組でもゲイやレズビアンの登場人物が見られるようになり、高校でもゲイとストレートの同盟が設立されたり、他方でボーイスカウトでは問題も生じたりした。

 

第8章 2000年~現在 いまよりすべてがよくなるさ

     2001年9月11日、犠牲者リストの第00001号として記載された神父ファーザー・マイクも、ユナイテッド航空93便のハイジャッカーと戦ったマーク・ビンガムも、ゲイだった。2996人の中には大勢のLGBTの人々もいた。1997年7月22日、ベイカー訴訟でカップルの結婚許可申請書が拒否されたことは差別であると州最高裁は認定。連邦最高裁も遂に2003年に同姓カップルに結婚を提供する州法を整備せよと命じた。隣のカナダでも2003年6月10日オンタリオ州控訴裁判所は同姓カップルと異性カップルを差別することが憲法違反であるとして、2005年にはカナダ全土で同性間の民事婚が合法化される。ブッシュ時代の軍隊での「聞くな、話すな(ドント・アスク、ドント・テル)DADT」も2010年9月9日カリフォルニア連邦判事による違憲判決が出る。毎年10月第3木曜日は魂の日(紫色の服を着ることでLGBTの若者への支持を示す)、4月半ばは沈黙の日。スポーツ選手のアライ宣誓も広く行われている。オバマ政権となり、クリントン国務長官が国連人権デイの演説で「ゲイライツはヒューマンライツヒューマンライツはゲイライツだ」と演説。

2013年ウィンザー事件で連邦最高裁は結婚防衛法の殆どを葬り去り、2014年連邦最高裁同性婚禁止法が違憲であることを下級審が議論を尽くして合意しているから上告の案件は審理しない旨を発表する。もっともアメリカは2015年10月の時点では50州のうち28州はゲイ・レズビアンを理由に解雇することに問題はなく合法とされておりまだ戦いは続く。

 

終章 日々のヒーロー

    「決して疑ってはいけない、思いやりにあふれた小さな市民の集団が、世界を変えることができるのだということを。実際、唯一それでしか世界は変わってこなかった」-マーガレット・ミード

    

訳者あとがき 平等を諦めない人たちの記録―作用と反作用の行方

 本書刊行2015年以降、2019年10月までに何が起きたか。トランプ政権による公然たる反LGBT施策を背景に、白人至上主義、男性主義といった時代を逆行する反PCの風が吹き荒れる。2020年の大統領選挙には民主党候補の中にゲイ男性サウスベンド市長が登場。日本は渋谷がパートナーシップ証明書を交付するようになった2015年前後から急ごしらえで理解が進んだかのようになっているが、日本のLGBT問題の空白を埋めてくれるのが本書である。これからの歴史を書き足していくのは「あなたたち」である。