ブレイク詩集 寿岳文章訳

昭和43年6月25日初版発行

 

巻末の訳者解説によると、ブレイクの生涯をつらぬく太い一線は、そのたくましい宗教性にある(したがって正確な人体写生を特色とするルーベンスは想像の世界に生きるブレイクにとって対照の存在である)。「無心の歌」は普遍と個我、神と人間とを一つに結ぶかれの基本的な原理、〈詩霊〉または〈想像〉を導入して、ことあげしない童心の世界を歌った。「有心の歌」はデカルト以後の近代精神の相である、とする。

 

24頁の注によると「無心とは経験以前の純粋無雑の世界、有心とは経験以後の煩悩無尽の境地。キリスト教的に言えば、前者は現在を知らない前のアダムとイブ、後者は善悪を知って楽園から追放されるアダムとイブに当る」。

 

 

序詩(有心)

 

 詩人の声を聞け!

 かれには現在と 過去と 未来が見える

 かれの耳は 聞いて知っている

 太古の木の間を歩んだ

 神の声が

 

 罪を犯した魂を呼び

 夕ぐれの露に泣いているのを

 それは 星の空をととのえ

 落ちに落ちた光の大天使を

 よみがえらすために!

 

 「おお大地よ おお大地よ かえれ!

 露しとどの草から起きあがれ

 夜はふけ

 今しも朝が

 眠りまどろむ大地から立ちあがる

 

 そむくな ふたたび

 なぜに おまえはそむこうとする!

 星のゆか

 水の岸が

 おまえのものなのは夜あけまでにすぎない」

 

 

朝の喜びこそ

 

朝の喜びこそ げに

夜の喜びよりも 甘美ではないか?

そして 青春のたくましい喜びは

白昼の光をはじらうか?

 

老齢と 病いは こそこそと

夜のうちに 葡萄の園から盗むがよい

だが たくましい青春の熱火に燃えるものは

光の前で堂堂と果実を摘め

 

 

 無心のまえぶれ(長編詩だが一部だけ引用する)

・・

たましいが光の輝きの中に眠っているときに

神は姿をあらわす 神は光である

・・

 

 

 地獄のことわざ(『天国と地獄の結婚』)

・・

一念 よく無限をみたす

・・

こころよい喜びをもつたましいは 決して汚されない

きみが鷲を見るとき きみは詩霊の一部を見ている 高くあげよ きみの頭を!

・・