ザ・ミュージアム 世界の知と美の殿堂 オーウェン・ホプキンズ著 野中邦子訳

2022年9月30日初版発行

 

表紙裏「人類の良心の宝庫。傑作は収集され、守られ、広く称えられる。時代を超えた概念によって美術館は誇り高い瞬間を生み出すために蓄積し人類の政治とかかわりのない夢と理想を守るために尽くし目先の暮らしの変化と欲求と複雑さに気づき、また応えつつ歴史を維持し、愛を活気づかせる。1970年の『ニューヨー近代美術館100年記念』展にラウシェンバーグが寄せた宣言 今日、美術館はもちまえの再現性によって定義されるメディアとの一体化をはたした。すなわち写真、映画、そして近年ではデジタルのメディアやオブジェであり、それらは根本的に『オリジナル』の作品という概念に背くものである。それでも、ラウシェンバーグが書いたように、『時代を超えた』『宝庫』としての美術館の地位は相も変わらず盤石なのだ」

 

 

世界各国の著名な美術館の外観・内覧写真とそれに関する詳細な解説がなされた319頁建ての大判の本書。値段も税別で4900円とリーズナブル(とはいえ結構高いか?)。いずれにしても、1000字や2000字で本書を要約することなど到底不可能。本書を手にした読書は必ず感動を覚えるはず。私も今から20年前にイギリスのナショナル・ギャラリー(トラファルガー広場の前)等に訪れた記憶や、15年前にアメリカ・ニューヨーク近代美術館MoMA)や国立航空宇宙博物館を訪れた記憶が鮮明に蘇ってきた。190~191頁にかけてアンドレ・マルローが空想の美術館のために写真を並べる姿やサイズの異なる写真を見る姿を写し出した写真を掲載するとともにマルローの「人類の終焉をもたらす運命という概念をこれほど生き生きと、また説得力をもって伝えるのは、偉大な様式による表現のほかにはなにもない。その発展と展望はまるで、宿命が気まぐれに地表に残した長い傷のようだ。」を引用しながら、“人文主義”的解説を加えている箇所が特に印象に残った。

ルーブル美術館に残念ながらまだ行ったことがないが、ルーブル美術館を上空から撮影した写真や内部構造(特にグランド・ギャラリー)が詳しく紹介されていて、生きているうちに何とか一度は直接目にしたいと改めて痛切に感じた。著者は巻末で「ミュージアムを訪れるときは好奇心と驚きで胸がいっぱいになる。この本を読んだ人びとに同じような気分を

味わってもらえたら幸いだ」と書いて締めくくっているが、少なくとも私は好奇心と驚きで胸を一杯にさせられた。純粋に素直に、ありがとう、と言いたい。