本物のおとな論 人生を豊かにする作法 外山滋比古

2016年9月22日第1刷発行

 

表紙裏「苦労の経験が、知的人間をつくる」

 

・つつしんで歩くのが大人である。心の持ちようが歩き方に出る。

・自分のスタイルを持つのが大人である。スタイルとは人柄のことである。

・落ち着いた声で話すのが大人である。

・考えながら喋るのが大人である。早口になるのは、田舎ものなのである。田舎から出てきて自分のことばに自信がない。間がもてないからつい、早口になる。

・アイマイな言葉を使うのが大人である。アイマイな美学は一日では生まれない。洗練という伝統の中でみがかれてはじめて輝くようになる。

・ことばを包むのが大人である。むき出しで話をしない。

・敬語のたしなみを知るのが大人である。外国語にも、婉曲語法はちゃんと存在する。英語に敬語がないと言うのは乱暴で無知である。

言ってはいけないことを知るのが大人である。“ください”は命令形である。“ください”は“しなさい”よりはていねいだが、見おろしたことばづかいである。

団体生活が大人を作る。

・共同生活が大人をつくる。知識があれば立派な人間であるというのは勘違い。大きな子どもを育てただけである。ハコ入りのこどもの危うさを、おそらく、はじめて気づいたのは、イギリスであろう。18世紀からイギリスは高度成長を謳歌中流階級が拡大し、それにともなう、おもしろくないこともふえた。そこでふえたのが、ハコ入りこどもである。ハコから出すには全寮制の学校で教わったり寝るほかはない。そういうことを発見して、パブリック・スクール(私立)をはじめた。上流・中流の子弟を寮に入れて団体生活をさせる。学業だけではない。スポーツをして身心をきたえる。質素な日常生活をさせて困苦欠乏にも耐える力を養う。すばらしい人材が輩出。ジェントルマンという近代的人格を創り出し、世界をおどろかせた。

エスカレーターでなく、会談が大人をつくる。イギリスの哲人、トーマス・カーライルは、「経験は最良の教師なり。ただし、月謝がひどく高い」と言った。

・正直ではなく、白いウソをつくのが大人である。バカ正直は、自己中心的。相手を思いやるゆとりがない。こども的である。近松門左衛門は文芸を“虚実皮膜の間”とのべた。

・裁くのではなく、他人を応援するのが大人である。たわいない病人は、先生の“応援しています”ということばに、どれほど力づけられ、励まされるか知れない。

・相手を大切にするのが大人である。大声でわめくようなのは力のないもので、しっかりした人間は、大人の話し方をする(オックスフォード・アクセント)。ひとのことを考えないのは幼稚である。相手を大切にすれば、相手からも大切にされる。ていねいなことばを使えば、相手からもていねいに扱われる。きまりきったことであるが、わからない人が少なくない。

・味のある顔をしたのが大人である。

・年相応の苦労をしたのが大人である。

・威張らず、腰が低いのが大人である。

・広い世間を知るのが大人である。“学問の背景のあるバカほど始末の悪いものはない”(菊池寛

・真似ではなく、自分の頭で考えるのが大人である。学校で習うことはモノ真似練習。知識を借りてきて、えらそうにしているのはB級人間。自分の頭で、実験し試行錯誤の苦労をおそれないのがA級人間である。

・矛盾しているのが大人である。

 

なかなか面白い読み物です。