杖下に死す《上》 北方謙三

2013年6月10日発行

 

勘定奉行を勤めていた父村垣淡路守定行の妾腹の子光武利之の家は代々お庭番、隠密の家計だった。江戸から大坂に遣わされた奉行付きの光武がある時与力の吉田勝右衛門から声を掛けられた。その前を東組の与力大塩格之助が走っていった。東町奉行跡部良弼、西町奉行矢部定謙譲。利之が米屋に顔を出した後、武士が3人出て来た。殺すこともなく簡単にやっつけると主人が出て来て平身低頭した。若い与力内山彦次郎が利之を酒を飲みに誘った。腕を過信して真剣勝負に利之に吹っ掛けたので利之が真剣で戦うことの意味を内山の体に刻んで教えた。大塩格之介の養親大塩平八郎が開いた洗心洞という陽明学の塾に東町の与力や同心が門弟となっていた。利之は矢部と歓談した。大塩平八郎の正論と江戸ばかりを見る能吏の跡部とのぶつかり合いだと簡単に言う利之を矢部は窘めた。矢部は江戸に勘定奉行として戻ると利之に告げた。利之は大塩格之助に剣を教えることになった。利之が格之助を飲みに店に入ると、矢部と跡部がいたので、2人は挨拶に行った(第1章 雷鳴)。

 大塩平八郎と利之は槍と刀で対峙した後、平八郎は飢えた民を救うために正論を繰り出すが、利之は格之助が平八郎の一部で自分というものがない、ただそんな利之でも格之助は自分にないものを持っているとも言う。それは忍耐だと。利之は定番組与力の息子大井正一郎と酒を酌み交わしたが大井の正体はつかめなかった。平八郎の門弟の一人宇津木矩之允が格之助と語らう。宇津木は町奉行と洗心洞がぶつかるのは良くないとの常識論をぶつけるが、知行合一を信条とする平八郎を尊敬する格之助は宇津木に物足りなさを感じる(第2章 月の光)。

 

 どうやら大塩平八郎そのものを描く小説ではなく、養子の格之助を通して平八郎を、利之という人物の眼で描こうとする小説のようだ。