孟子 不安と混迷の時代だからこそ 安岡正篤

2005年4月18日第1版第1刷

 

帯封「己を磨き 心を高める智恵 理念に徹して生きる哲学」

裏表紙「王道政治・民意尊重を理念として掲げ、国と人のあるべき姿を追究した『孟子』―混沌とした時代を志高く生き抜くために、我々は今こそ『孟子の精神』にその指針を求める必要がある。本書は、陽明学の泰斗が、人間の徳性、“恕”を強めて“仁”を行う、猶興の士など、『性善説』に基づく仁義礼智の思想をわかりやすく解説。良心・良識を重んじ、敢然と生きることの大切さを披瀝した講話録である。」

表紙裏「『孟子』で学ぶべきところといえば、あの信念に向かって何も恐れないという気力、迫力でしょう。安岡先生は人間として一番大切なものは『気迫』である。『気迫』がなければ人間もその国も危ういといわれましたが、『孟子』にはそれがある。 本書『あとがき』より」

 

目次

第1章 父と子、そして教育

父子の間は善を責めず

名宰相・謝安の子弟教育

人間としての「徳性」

森田節斎の「自反」

革命論の誤解と病癖

青年・学生と教授に告ぐ

第2章 終末論と『孟子』の背景

静かなる終末論

「救世主」待望論議

曲学阿世の由来

「兵家」と「墨家

猛烈なるアイディアリスト・孟子

ビートニク」の捨てぜりふ

ビート族と東洋的虚無感の違い

孟子』は終末論を打破できるか

第3章 『孟子』尽心章句を読む

「尽心」の偉大なる真意

「正の順受」こそ正命

「恕」を強めて行い、「仁」を求むる

「沈潜」の重要性

大衆の無知と終末論

「敬」と「恥」

善を好みて勢いを忘る

「猶興の士」

東洋的虚無感と生道

皇・帝・王・覇の特質

「良能・良知」とこれからの学問

感動と実践力

あとがき 山口勝朗

 

・スイスの詩人・哲学者アミエル『アミエルの日記』に「人間は習慣の織物である」とある。

・科学的という思惟方法を適用していくと、歴史内容をなす出来事や人物や著作の事実の解明にも大いに役立つから、そのこと自体の持つ意義と価値とは十分に認めなければならぬが、同時にそれから生じやすい重大な危険性を明確に知っておかねばならない。そういう学風が万能ということになれば、一切の高尚な人物の打成、文化の発達の淵源となる人格生活・個の完成・自反・尽己の学風行道は滅んでしまうことになる。その弊害の窮まるところ、浅薄卑俗な学生・学者が得々として聖人を批判し、経典を軽蔑し、そして宗教・道徳を愚弄するに至る。

・「われわれは未来を前にして後ずさりして行くようだ」(ヴァレリー

・人間の思想の志向は大体3つの傾向がある。アイディエーショナルとそれに対しリアリスティック、それが分派してアイディアリスティックなパーソナリティーとリアリスティックなパーソナリティー。理想主義派と現実主義派になる。

・真の学問、芸術、宗教、その他、真の文化は、けっして団体や組織、大衆の中からは出てこない。これは必ず徹底した一個の個人の魂からのみ発する。これはいかなる学者、研究科も、いささかも疑わない大原則である。

・アレキシス・カレル『生命の智慧』は名著である。人間は学問、芸術、文化のすべてを通じて、もっと天に事えなければならない、それでこそ本当の文化であると説いている。

陽明学の大家の李二曲は「黙養」が大切であると言っている。黙って放出したエネルギーを蓄積せねばならない。

・立派になる人間は必ず「よく沈潜」する。竹も地中の石にぶつかると、地表に出てしまうか折れてしまうのと、石を抱くように中へはいっていくのがある。

・西欧で恥の哲学を力説したのはロシアのソロビエフ『ザ・ジャスティフィケーション・オブ・グッド』。ロシアの『孟子』学説のようなものである。

・「愛」とともに「敬」を与えて人間は一人前になる。

・『経書』を学ぶことを根幹にすれば、学問は体系的になる。