夕映え天子〈下〉 浅田次郎

2019年11月20日発行

 

琥珀

定年間近の警官が、有給休暇の消化のために一人旅に出た。漁師町で寒さ凌ぎの為に入った喫茶店で珈琲を淹れている男は、放火殺人で時効間近となった指名手配犯だった。マスターは会話の途中で相手が旅人でないと気付き、警官は時効ギリギリまで外出しないよう告げ大手柄を挙げようとしていた。この秘密を分け合うつれあいを失ったことに警官は気付いた。

 

丘の上の白い家

丘の上の大理石の家に住む裕福な少女と貧しい少年2人の付き合いが悲劇を生んだ。主人公の親友と無理心中しようとして親友だけ死んでしまった。主人公は大人になり建築士として会社勤めを終え、孫が生まれた後、晩年を迎えた少女と再会する。丘の上の家の煉瓦の煙突に括りつけられた風見鶏は赤錆びていた。最後に、少女から主人公宛の遺書が紹介される。親友は嘘を付かないいい人で、親友を紹介されくれた主人公に感謝し、しかも本当は少女は主人公の方が好きだったと打ち明けるものだったが、ラブレターでなく、主人公が運のいい人だと伝えたかっただけというものだった。

 

樹海の人

著者が自衛隊員であったころ、通信隊員として一人ずつ富士山の樹海に置き去りにされるという厳しい訓練を受け、時間が経過するにつれ、いつまで訓練が続くのか極度の不安に陥った。そうこうするうちに樹海の中である人物と出会った。食糧不足と睡眠不足の中で朦朧とする中、これは夢か幻か。未来の私が紛れ込んだのか。自伝的小説のようである。