平成16年11月30日初版発行
第四話 瑠璃色の部屋
老婆は、四郎が売れる前に住んでいた部屋の扉を開いた。部屋の窓は古い意匠のステンド・グラスだった。当時、札幌のコンクールで三位になり、ギター一つで美しく足が不自由な姉に見送られて札幌から上京した四郎。。一年があっという間に経った。かつてのバンド仲間はバラバラになってしまった。隣の住人オナベのカオルは四郎のギターがうるさく、四郎はカオルの歌声がうるさかったのでよく喧嘩になった。リーダーに1年ぶりに再会すると2週間前に姉が亡くなったと聞く。足が悪くて線路を渡れず踏切列車に跳ねられたと。連絡先が分からず四郎に何の連絡も出来なかった。姉の死を聞いて道端で姉との思い出を回想する四郎。札幌でライブ帰りで上の姉の厄介になるつもりが泊まれなくなって、二人でラブホテルに泊まり、お互い将来のためにキスを試した二人だった。姉は四郎のためにイブに東京で過ごす予定だった。カオルはイブは二人で姉の供養をする約束をしてくれた。当日、カオルは男の姿でなく、姉にそっくりな美しい姿で現れ、キスする四郎に「男のキスも悪くないね」という。その後、四郎はスターになったが、老婆はカオルがいたからだと教えてくれた。次はカオルの部屋だ。
第五話 花の咲く部屋
天井から吊るされた鉢に白のブーゲンビリアの花が身の丈ほど育っていた。カオルの部屋だった。札幌から上京して造花工場で働く花子にはギャンブル好きの兄がいた。花子の給料を毎月前借りしていった。花子は工場社長の愛人で「お手当」が別に花子に出ていた。ところが兄がそのことを知ると、花子の知らないところで社長を強請るようになり、社長を殺そうとした。未遂で済んだのは、花子に思いを寄せていた他の会社で営業をしていた小川のお陰だった。小川は花子にプロポーズしたが、花子はルピナスというレズバーに駆け込み、オナベとして生きるみのるの手を握った。老婆はカオルがいい男だったと語り、棺が花で埋められ、死に様まで格好良かったと語った。
第六話 マドロスの部屋
老婆は2階突き当たりの大男の部屋に案内した。キャプテンと呼ばれていた園部幸吉は、特攻隊員として出撃命令を得て澄子に遺書を書く。翌日終戦。復帰まで1年ほど経過し、澄子に会おうすると、澄子は自決していた。霧笛荘の住民となり、カオルの死に際して棺を独りで運んだのはこの男だった。
第七話 ぬくもりの部屋
霧笛荘の住人ではない山崎茂彦は銀行から好条件で不動産会社に引き抜かれた。山崎は霧笛荘の立退業務を担当したが、結果が出せなかった。立退料五百万を払うと言っても住人が出ていかないからだった。眉子が代表して理由を説明した。幸せはお金で買えても、金で買えないものがある、みんな自分の人生を変えない、と。