わが落語鑑賞 安藤鶴夫

1998年9月10日発行

 

富久(とみきゅう)

師走、浅草阿部川町の幇間久蔵は、文さんから、なけなしの一分で、松の百十番の富の札を買う。買った富札を、大神宮のお宮の中に納める。一番富なら千両、二番富の五百両でも結構なので、当たったら大神宮の立派なお宮を作り、堅気になって小間物屋の店を買い、万梅のお松さんを嫁にもらおうと皮算用。ところが、その夜、日本橋から火事が出て、久蔵は越後屋の旦那から頼まれて、荷物を避難させる。久蔵はお見舞い客の名前を帳面につけるよう言われて帳面をつけていたら、酒が届き、飲むことが許されて飲んでいると泥酔してしまう。ふたたび火事が起き、今度は久蔵の家の近くだった。長屋は灰になる。久蔵は同情してくれた旦那の世話になる。富くじの抽選会で、松の百十番が当たった。札さえ出せば手数料を差し引いて七百両は受け取れる。が、札は火事で焼けてしまった。久蔵は、文さんに売ったことの生き証人になってくれと頼むが、札がないのでどうにもならない。ところが、鳶職のお頭は火事の時に久蔵の部屋に飛び込んで大神宮さまのお宮を自宅に保管してくれていた。久蔵は蒲団や釜が自宅に保管してあると聞いて、お頭に食ってかかり、大神宮さまを返せと、お頭の胸倉をつかみ、泥棒呼ばわりした。お頭は、久蔵が気狂いになったと言いながら、久蔵に大神宮を渡すと、中には富くじの当たり札があった。久蔵は急に態度を改めて感謝し、千両富が当たったお礼を言うと、お頭は、おめえがふだん正直もんだから、正直の頭に神宿るとはこのことだと言う。久蔵はこれでご近所のお払いをしますと答える。

 

外に「百川(ももかわ)」「船徳」「笠碁」「鰻の幇間」「心眼」が収録されている。