緑と赤 深沢潮

2015年11月10日初版第1刷発行

 

大学3年の金田知英は、親友と海外旅行に行くためにパスポートを準備した。赤や紺ではない、濃い緑色。ページを開き、写真の横に書かれたKIM JIYOUNGキム ジヨンの名前を見て誰のことだろうかと思う。四世にあたる知英は母から初めて出自を聞くが、日常生活に別段影響はなかった。それでもあなたは日本人ではありません、韓国人ですと宣告されたような気がして気持ちが乱された。K-POPファンの親友の梓と新大久保を歩くと、ヘイトスピーチのデモと、それを止めようとするグループに出会う。梓に在日韓国人だと打ち明けると、グアムでなくソウル行きにしようと言われ、知英は応じる。母からは反対されたが、世界遺産を観てくると言って2泊3日の旅に出た。旅先で帰化した金田龍平に出会う。帰国して羽田空港で態度の悪い在日韓国人が騒いでいるのを見て、梓がああいうのがいるから嫌われちゃうんだよねとぼそっと呟いた。梓は知英とあの人とは別と弁明するが、梓とは一緒にいることができなくなった。

梓は、韓国アイドルバンドのボーカル、ジョン・ヨンファのファン「ヨンワイプ」を待っていた。会ってみると中年女性だった。ヨンファに似た店員がいる店に一緒に行った。バイト先で知英と会った梓は知英にヨンワイプを紹介する。ヨンワイプから知英は、あなたが梓の在日のお友達ね?と声をかけられる。知英は梓に、在日と聞いた瞬間から、態度や見方が変わったのはおかしくないかなと言って、立ち去ってしまう。梓は韓国旅行で知り合ったはなえちゃんとカフェに入る。ヨンファ似の店員はジュンミンと言った。ヨンワイプさんと一緒に梓はデモに参加した。ジュンミンのいるカフェに梓が一人で入る。ジュンミンはデモを気にしないと言う。ジュンミンが日本人の女の子、大好きというと、梓の心臓は跳ねあがった。

ジュンミンは、スンホとユソクの3人で住んでいた。ドンヒョンと交際していたはなえは、梓とジュンミンを連れて4人でディズニーランドに行った。ジュンミンは梓とキスし、恋人同士になる。釜山に帰るとジュンミンは家族から日本人の彼女とか作ってないよね?と聞かれる。酒の入った叔父からは韓国人が日本人に酷いことをされたことを忘れてはいけないと言われる。そこに梓がフェイスブックの位置情報を頼りに突然訪れてきた。梓と付き合っていることがバレたジュンミンは家族から梓と別れると迫られた。親に逆らえないジュンミンは翌日梓と会う約束がダメになったとだけ伝えた。

ヨンワイプのアカウントを持つ良美は、梓から韓国に興味がなくなったと告げられたが、カウンターに出会ったことで人生が激変した以上、差別問題に黙っていられなくなっていた。同級生の塚本路子の子供と甥っ子が同級生だった。甥っ子の母がフィリピン人だと言う理由でいじめを受けていると聞いた良美は塚本宅に抗議に行くが相手にされなかった。良美の母は良美の行動が気に入らず家から出て行くように言う。良美は三鷹の恭一おじさんの家に厄介になる。ある程度時間が経過した後、恭一おじさんは自らも左翼運動にのめり込んだ経験があったので、良美に運動体はいつしか自己満足のために動くようになると助言した。

金田龍平は周囲には日本人として振舞っていた。大学時代の友人たちと飲んだ時に、韓国や韓国人に偏見を持つ友達が我慢できずに在日だと打ち明けるが、険悪な雰囲気のまま友人は帰ってしまった。残った友達の佐藤とは落ち着いた話が出来たが、在日が住みづらい日本になりつつあるのを実感せざるを得なかった。だが佐藤が俺によって金田は金田でしかないから、なにじんとか関係ないと言ってくれたことで涙が出そうになった。龍平はちえと会った。ちえも在日韓国人だと知り驚くが、ちえは在日だということを隠していた。龍平はやり場のない怒りからちえの前から立ち去った。本当のことを言いたくない相手、心を許すような対象ではなかったと思うと、悲しくてやり切れなくなった。佐藤と会った時に龍平が在日を隠していたのとちえが隠していたのは同じだから、そんなに怒ることでもないんじゃないかと言われ、はっとする。姉も在日と結婚する時に在日だということを言わなかったことを聞いた龍平は、姉から、アメリカ人だろうが日本人だろうが分かり合える人はいるよ、想像力があって人の痛みや悩みを理解する人、理解できないまでも理解しようと努力する人ならねと言われ、佐藤のことが頭に浮かんだ。龍平はかなに、怒ったりしてゴメンと謝った。

バイト先の仲間から梓が失恋のショックで立ち直れないと聞いて知英は驚いた。久しぶりに梓にメッセージを送った後、レスがなかなか来なかったので気を揉んだが、再び再会した。

梓が付き合っていた韓国人に裏切られて韓国を好きじゃなくなったことを打ち明ける。知英は梓が個人的なものさしで韓国を好きになったり嫌いになったりするのを見て、多くの日本人がそうなんだろうと思うのと同時に、自分は在日韓国人であることから逃れられなかった。龍平と話をして知英は、彼の感情的にならないでひとりひとりといい関係を築いていこうと思うことにしたんだという言葉で、落ち込んだ気持ちから復活できた。それでも知英は在日であることに悩み続けた。母から父も在日であることに悩み結局自殺したことを聞いた。父がシンガーソングライターとして作詞した歌詞を読むと涙が滲んだ。龍平とのやり取りも少なくなっていった。梓が心配して家に訪ねてきてくれたが会えなかった。龍平にも電話で少しだけ話が出来た。知英は梓と話が出来た。梓は自分の『嫌い』っていう気持ちが知英を傷つけていたんだって気が付いたと言い、私に言う資格ないけど、『嫌い』に巻き込まれないでと瞳を潤ませながら言う。知英はソウルに一緒に行って龍平を紹介したいと言い、梓は感極まって知英に抱きついた。

 

在日のことを考える、とってもいい本です。