独裁者プーチンはなぜ暴走に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の真相 池上彰

2022年5月15日第1刷発行

 

 本書は週刊文春に連載していた「池上彰のそこからですか⁉」を再構成し、加筆訂正したもの。

 個人的には、「Ⅱ 2014~2021 すべてはクリミア併合から始まった」から読んだ方が、時系列で一連の流れが分かるので、ここから読むのをお薦めしたい。勿論、冒頭にある「Ⅰ 2022 プーチンによるウクライナ侵略」は今最もホットな話題であるから、ここだけを読みたくて読む人もいるのだろうが、それだと流れの中で今回の問題を正しく位置づけ正確に理解することはできないのではないだろうか。その上で「Ⅲ 2016~2021 独裁者・習近平にどう対峙すべきか」に入るのが良いと思う。

 帯封には「緊急出版!今、日本にも迫る危機とは⁉ そもそもウクライナはどんな国?プーチンの悲願『偉大なロシア』とは? もう1人の独裁者・習近平の目論見は? -わかりやすく解き明かす!」「ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争クリミア半島は戦争の火種、トランプは『ロシアのエージェント?』、スウェーデンの徴兵制、北方領土は二島返還、ロンドンで毒物襲撃事件、英・民間調査組織の実態、難民を武器にするベラルーシウクライナ軍“善戦”の理由、香港で起きる『拉致』、中国共産党100年、日本も食糧危機に?」とある。

 さて、Ⅱ章では、2018年1月19日、フランス・マクロン大統領が徴兵制度を復活させる考えを示したこと(フランスは1996年に段階的廃止を決て2001年に廃止完了)、スウェーデンでも2018年1月から徴兵制を復活させていること(2010年に廃止していた)、フィンランドノルウェーデンマークには徴兵制があることなど、ヨーロッパはテロ対策だけでなくロシアへの恐怖が高まっていることが背景にあると説明されている。ウクライナだけでなくバルト三国をも偉大なロシア復興のために侵略があり得ると想定しているヨーロッパと比べて日本は対岸の火事になってはいないだろうか?

 またプーチンは大統領を一度退いた後、後任大統領の権限を縮小し、議会が大統領任任命権を持つようにし、議会を牛耳ることで院政を敷き、再び大統領に返り咲いて2024年までの2期目を務め、その後首相に就いた後に再度大統領になるつもりではという観測もあったようだ。

 2018年の元スパイ・スクリパリ氏がイギリスでノビチョク(旧ソ連開発の神経ガス)で重体に陥り、反プーチンの活動家ナワリヌイ氏もノビチョクで意識不明、古くは2006年にも元スパイ・アレクサンドル・リトビネンコ氏はポロニウム210(大規模な核施設がなければ生成不可能)で命を狙われた。2015年には野党指導者ネムツォフが射殺される。

 このような犯行がロシアによるものだということはイギリスの民間調査報道機関ベリングキャットが独自取材により暴露してきたと。公然情報を分析して事実を明らかにする手法を用いている。

 ベラルーシから大量の難民をポーランドに押し寄せさせてドイツに流入させるという手法も2021年秋から問題になっていたそうだ。

 その上でⅠ章の、今回の2022年2月24日のウクライナ侵攻。「ドネツク民共和国」「ルガンスク人民共和国」は各州のうち面積にして3分の1ほどしか実行支配していないが、州全体を国家の領域と憲法で定め、その国家から助けて欲しいと言ってきたからロシア軍を送りウクライナ軍を壊滅させることにした、というのが今回のロシアの理屈。ジョージア内の「南オセチア共和国」と「アブハジア共和国」、モルドバ内の「沿ドニエストル共和国」も緩衝地帯としてロシアを守る勢力の共同体となっている。

 Ⅲ章では、香港では報道の自由が次第に狭められていき、遂に国家安全法が制定されて一国二制度が死に追いやられるとともに習近平首席の誕生で一層独裁化に拍車がかかっている中国の様子を描いている。

 ロシアによるウクライナ侵攻が中国の独裁化の強化にどうつながるかという観点の記載があれば、と思ったが、それは残念ながらなかった。