少年時代 ラビンドラナート・タゴール  大西正幸(訳・解説)

2022年10月10日初版第1刷発行

 

後半に73頁もの詳細な解説がついているため、解説と合わせて前半を読むと分かり易い。

ヨーロッパ人以外で初めてノーベル文学賞を受賞したタゴール(1861~1941)が1940年に書いた回想録『少年時代』。序文、「少年」と題された序詞、全14章の本文からなる。1章までが幼年期、9章から13章前半までが少年期、13章後半から14章が青年期入口と全体のまとめ。この本で初めて気づいたのだが、タゴールは7人の兄と5人の姉の末っ子で、一番上の兄とは21歳差。2番目の兄とも19歳差。7兄とは2歳差、長姉とは14歳差、5兄とは12歳差。これらの兄たちや、その妻たちの影響を受けて幼い時期を過ごした。特に5兄の妻カンドボリには子どもがいなかったので、幼いタゴールには深い愛情を注いだようだ。そのため9章から13章前半までのほとんどが5兄夫妻とタゴール間の親密な交流を中心に話が進んでいる。タゴールの内面の成長にとってこの二人の存在は大変大きかった。

タゴールの父デベンドロナトは瞑想生活のためにヒマラヤに籠り滅多に家に存在、家にいるときにも敬して接すべき遠く離れた存在だったが、家にいるときは天文学を含む様々な学問や宗教の指導に加え日常生活の規律や財産管理にまで訓練を施していた。

タゴールには50~51歳の時に書かれた『人生の追憶』という回想録があるが、タゴール自身、『人生の追憶』と『少年時代』を比較して、「大洋と細流(せせらぎ)の違い。前者は語り、後者は囀(さえず)り。前者は籠の中に並べられた果実、後者は果実のついた木そのもの」と、的確な比喩でこの二つの回想記の性格の違いを述べている。

『少年時代』本文を要約するのは難しいが、先のとおりタゴールに多くの兄夫妻らがいたことを知って読むと、タゴールという人物の人間形成にいかに彼らの影響があったのか少し分かるような気がする。