一所懸命《上》 岩井三四二

2022年11月20日発行

 

魚棚小町の婿

 烏帽子屋仁右衛門の長女クメは父に似て大柄、肩幅も広く腕も太い。顔も大作りで目も鼻も口も大きく器量が悪い。次女サトは母に似てやや小柄で色白、細面のきりっとしたかをした美人。サトに夜這いをかけた若衆の美男の四郎を合戦に駆り出すために娘をやろうと仁右衛門が誘い出して奏功する。合戦のため魚を売る魚屋が店を閉めたので仁右衛門は魚を売って大儲けする。が敵に内通したかどで捕まる。そこに山道を登っているときに足を踏み外して崖から落ちて腕を折った四郎が敵と戦って負った怪我を偽って仁右衛門を助け、約束通りに娘のクメをほしいと言い出した。娘のクメを見直し、幸せそうな2人の忍び笑い声を聞きながら、喜んでいいのか悲しむべきなのか考えた、というお話。

 

八風越え

 馬持ち衆でもなく徒歩衆でもない、寄子という田地も資金もない又二郎は、弟の五郎三郎と村一番の力持ちの鹿と呼ばれる若者の3人で、兄の田畑を勝手に質入れして軍資金を作り美濃に紙の買い付けにいく。市場で安く紙を仕入れ、百姓では年間4貫文しか稼げないが、たった10日ほどでその半分を稼ぐ目途が立つ。木曽川の渡し舟に乗ると、船頭は櫓を川の中に放り込み川の中から襲われる。無事に乗り切るが、今度は伊勢と近江を結ぶ八風街道までくると、保内商人と言われる強盗すら働く者に襲われる。鹿が足止めをしてくれているうちにその場を逃れ、咄嗟に旅の初めにハツからもらったお守りの腰紐でコナラの大木の枝に紙の荷を絡ませて敵の目をごまかして難を逃れた、というお話。

 

一所懸命

 福光右京亮は美濃の国の下福光郷の福光家当主の22才。稲葉山城主の斎藤左近大夫利政は美濃の守護代として籠城し、右京亮は百姓たちと出陣して、尾張の織田弾正忠の大軍と戦う。途中、百姓の一十が慣れぬ具足を着けて走ったためバランスを崩して田に落ちたところ、敵が襲ってきたので一十を見殺しにして敗走。尾張勢から攻め込まれ右京亮が落馬し、喉元に脇差の刃を突き付けられあと一寸で喉に突き刺さると頃まで追い込まれて悲鳴を上げるが、百姓たちはいつも間にか負け戦と見て逃げ出し絶体絶命に陥る。そんな時、ようやく援軍が到着して命拾いする。城内に籠っていた斎藤利政が打って出たことで漸く形勢逆転し味方の大勝利に終わる。右京亮が稲葉山城に戻ると祝宴を上げる。妻のねいは右京亮の髪が真っ白になってゐるのに気づき押し殺した嗚咽を漏らす。右京亮は初めて大きなものを守り切ったと感じる、というお話。

 

岩井三四二の作品は初めて読んだが、いずれも小気味良い短編集だった。