人生についての断章 バートランド・ラッセル 中野好之・太田喜一郎訳

1979年2月28日初版第1刷発行 2020年5月21日新装版第1刷発行

 

裏表紙「『現在、世界のほとんどの国において、歴史は国家的視点に立って教えられているが、国家は発展も衰退もするから純粋に国家的な希望は、当面はたとえ不分明であれ不可避的な年代的限界を有する.その上、国家の偉大さを教え込むために、歴史教育で最も強調される要素は、人類全体の栄光とはまったく無関係な他民族の征服と支配などである.人類全体の栄光を理解させるためには、人類の祖先の苦闘の先史的地質学的記録と人類の文明全体の歴史を教えなければならない.この過去の記録を学べば人類全体の動きが分り、学生はおのずと未来に向かう人類発展の動きを継続させようという気になる.』(『長い目で見ること』) 『西洋哲学史』ほかの著書で知られる20世紀を代表する哲学者、ラッセルが、1931年から1935年にかけてアメリカの新聞に連載したエッセイを収録.愛、結婚、自由、戦争と平和、進歩、知識、科学など、人生や社会における、さまざまな問題について、すばらしい相談相手となる.プラトンのいう『時代を超越して万物を見る人間=哲学者』の眼と、数学者、論理学者、教育者、平和運動家としての活動の経験が生きている.不況と不安の時代のなかで執筆された、知性とウイットに富む78篇.」

 

 

・嫉妬について

・性関係と幸福と

・外国で嫌われる旅行者

×老年の脅威 スウィフトは80歳で投票権と財産を剥奪さるべしと示唆。高年層の寿命を伸ばす医学的研究を阻止するよう働きかけるべきだと私は提案する。

・技巧礼讃 

・口紅を使ってよい人々

・経験の教え

○希望と恐怖 諸悪の根源とも言える拝金主義をなくしたいのならば、その第一歩として、だれもが十分に持ち、持ちすぎた人間がいない社会組織をつくりださなければならない。

×犯罪人は一般人よりも悪人か 犯罪の発生を防ぐには、二つの必要不可欠な条件がある。第一の条件は、犯罪を引き合わぬものにすることであり、これは刑法と警察の仕事である。第二の条件は、自分の利益を考えた行動がとれる自制心と健全な判断力を各自に持たせることであり、これは心理学者の仕事である。だが道徳家の出る幕などはどこにもないのである。

・臆病が勝 

○黙想の衰微 われわれが毎日三十分間静かに黙想にふけるならば、われわれは、個人的、国家的、国際的な諸事万端を今よりももっと正常にこなして行けると、私は確信する。

結婚 

?優等生について 創意と指導の力を持った人間が柔順という素質を持つことは稀である・・人に従うことを覚えた人間は、自分の個人的創意を全部失うか、権力に対する怒りを燃やすに至り、破滅的で残忍な志向を身につけるに至る。30歳以上の人間を学校の校長にしてはいけないと私は言いたいが、この卓越した改革案が採用される可能性はまずないと思う。

・われわれの貯金はどこに行く

・子供

○政治家について 民主国家での政治家という呼び名には、どことなく嘲笑のひびきがある。社会での評判が良い人が進んで選挙民の票を求めることはないし、たとえ試みても失敗するであろう。票をかせぐ人間は、えてしてあまりかんばしくない種類の政治家である場合が多い・・これは、民主政治の先駆者たちが夢想だにしなかった逆説である・・民主国家において、自分たちの政治家を批判することは、とりもなおさず、われわれ自身を批判することであることを銘記しよう。われわれは、われわれに相応しい政治家を選ぶのである。

・時代への適応 

△家柄崇拝について 家柄崇拝の最大の舞台は王室であり、それが生む弊害たるや英国民の想像も及ばないくらいである・・王室の教育と生活環境は人間を知的にするようなものではない・・このような弊害は、ある人間を当人のすぐれた個人的能力とは無関係な理由で無理に尊敬する社会的習慣から生ずる。この社会習慣は嘆かわしいものであり、アメリカでは公的にはその悪習がないのは幸いである。

・だれから賞讃をうけたいか

×国家の偉大さについて 本当の天才は常に謙虚である、という馬鹿げたことを述べた人間がいたが、これは事実とは正反対である。能力ある若者でも彼がもしも謙虚な性格ならば、親や友人に嘲笑されえその天才は抑えられる。

・世界は発狂する?

○われわれは受身すぎるか 勉強においては、教師が与える知識にばかり耳を傾けず、自分で積極的に調べて勉強することを勧めねばならない。

災難がうれしいのはなぜか 

・教育は有害か

○科学者は科学的か 科学者は超人ではないゆえに、われわれ同様に過ちを犯しやすい。

現実からの逃避 現実から空想の世界への逃避のために読書をする。・・逃避をしているという理由で、非難さるべきではないと思う。

×自殺は違法か 人命の尊重という言葉を真面目にとるのは誤りだと思う。・・人命の尊重を引き合いに出すことは偽善もはなはだしい。

楽天主義について 現下の様々な問題を解決するのは、建設的思想であって、内容の無い空宣伝ではない。

・他人の身になって考えること

・長い目で見ること

・男女の知能の差について

菜食主義者はこわい

・家具とエゴ

・なぜわれわれは欲求不満か

・場所の移動について

△協力について 今日では民主主義の影響をうけて、協力の美徳が過去において服従の美徳が占めた位置に取って代った・・先生の意図は、生徒に素直さや暗示感応性や群居本能や因習尊重の精神を教え込むことにあり、その結果は独創性や進取の気性や非凡な才能を抑えつけることになる。何か価値ある仕事を成し遂げた大人は、子供のころ、「協力的」ではなかった。

・女嫌いについて

・父親の影響 父親の影響を受けて偉大な業績を達成した人の例は、数多い・・父親の愛は、必ずしも必要ではなく、必要なものは、幼児期からの技術指導、限定された進路への注意力の集中、名を挙げようとする覇気等々である。

・クラブや団体について

・お説教について

・販売抵抗について

・子供は幸福であるべきか

・女権論者の危険性

・情緒の予知

・現代の懐疑主義

・英雄の模倣について

・身代りの禁欲主義

・人類を分類する流儀

・微笑について

○政府は戦争を欲しているか? アインシュタインの言うことが難しくて分からないかぎりでは、彼は賢明な人だと考えられるが、彼が万人の理解しうることがらをのべると彼の知恵はもう駄目になったと考えられる。この種の愚かな反応の音頭取りをするのが、各国の政府に他ならない。

体罰について

・動物が口をきけたならば

島国根性について 「島国根性」は島の住人に特有な気質どころか、それと正反対に広大な内陸諸国の住民の間で、最も普通に見られる属性にほかならない。海から遠く離れれば離れるほど、人々は「島国根性」に陥る。

・占星家について

・子供を現実から遮断する保護策

知的水準の低下

・病弱の自慢

・慈善について

○尊崇について われわれの救いはただ一つ、探求的科学的態度を養う教育制度の樹立でしかない。

・諺について

・衣裳について

社会主義者は上等な葉巻を吸うべきか

・ユーモアのセンス

・愛情と金銭

・犯罪への興味

?天才人になる秘訣 天才人になる秘訣の最重要な一つは、弾劾の技倆の習得である・・あえて事実と理性を無視し、諸君自身の幻想的で神がかった情念の世界の中だけに生きよ。革新をもって大まじめにこれを実践せよ。そうすれば、諸君は間違いなく時代の預言者の一人になれる。

・旧友について

・成功と失敗

△恥ずかしさの感情について ある種の幸福な人々は、大事と小事の別なくおよそ自分が間違ったことがあると感じた経験をまったく持たないらしい。

・経済的安泰について

臨機応変の才について

・自制の仕方の変遷

・名誉について

・歴史の慰め

・進歩の保証はあるか

・正義と武力と

・繁栄と公共支出

・公利と私利と

 

あとがき

 

ラッセルならではの鋭さを持ち、なるほど、と思わず膝を打ちたくなるものや諷刺が効いているものが多くある一方で、これはちょっとおかしいんじゃないかと思ったり、あまりに頭が良すぎるせいなのか一般には受け入れ難いものもあったりする。また評価が真っ二つに分かれるものもあるだろうし、どうしてわざわざこういうことを言うのだろうというものもある。

 

言語学と論理学に数学(集合論)を一つにまとめた20世紀の知の巨人の一人であるラッセル。ノーベル文学賞も受賞し、99歳まで平和運動を精力的に展開し続けた。常人では理解不能なところもあるけれども、そういう人の言説であるからこそ、耳を傾けるべき含蓄が多々含まれているのかもしれない。