愛猿記《下》 子母澤寛

1991年4月10日発行

 

ジロの一生

 愛想を振りまくことをしないジロだが、子供達が学校から帰って来ると、帰り道でジロは子供達をいつも待っていた。そんなジロにライバルが登場する。ジロとは対照的で、やたらと愛想を振りまく大型犬のアカがやってくると家族の関心は一気にアカに注がれる。ジロは居場所がなくなったかのように家を出て、家に帰って来なくなる。そんなジロが妙な咳をして病気になった。ジロの運命も長くはなかった。家で療養させてやりたかったが、ジロを家に連れて帰ることは難しかった。そんなジロがある日突然帰ってきた。尾が日本刀で切り落とされた残酷な姿だった。獣医に苦しまずに始末を頼んだ。数珠を首に懸けてやった。

 

犬と人との物語

紀州犬で3歳のフクを貰った。後日紀州の牝をもう一匹貰った。こちらはトチコと名付けた。トチコは右女だった。フクを空気銃で撃って怪我をさせた者がいた。フクと同じ大きさの一等賞を取ったシロがやってきたが、フクがシロをやっつけてしまった。トチコは人にもらわれていった。時がだいぶたってトチコが痩せて著者の家に帰ってきた。あまりに痩せすぎて著者はトチコと気付かず追い払った。子どもが出臍だと気付き、トチコだと分かった。トチコも墓も埋めてやった。

 

カラスのクロ

 ある日、カラスが家の中に入ってきて、カラスに飯をやると食べた。クロと名付けてカラスも著者は飼ってしまう。クロに刺身なども食わせた。火傷した時も治療してやった。ある日、釣鈎を呑み込んだクロが帰ってきた。抜いてやろうとしても抜けない。クロが出ていった。カラスは恩知らずだというが、クロは帰ってきた。庭で死んでいた。火傷の跡でクロだと分かった。

 

著者は、ノジコをもらい受けたが、鳴かず終いで終わったという体験談を書きながら、ノジコを詳しく解説する。動物愛に溢れている人だということは、どの作品を読んでも良くわかる。ここまで動物を愛することが出来る人というのは滅多にいない。