先哲が説く指導者の条件「水雲問答」「熊沢蕃山語録」に学ぶ 安岡正篤

2005年10月19日第1版第1刷

 

裏表紙「『水雲問答』は平戸藩松浦清山が纏めた『甲子夜話』に収められている、安中藩板倉勝尚と幕府大学頭林述斎との学問・政治に関する問答集。また、熊沢蕃山は備前藩主池田光政に登用され、藩政改革に実績をあげた人物で、『集義和書』はその語録。両文献とも永く『絶学』となっていたが、著者はそこに指導者の心得・見識を見出した。長い時を超えて、現代社会にも通じる実践的リーダー論とは。」

 

目次       

文庫本のまえがき

第1部 『水雲問答』を読む

第1章 治と乱 

第2章 権と人

第3章 人間の用い方

第4章 失敗と工夫

第2部 経世済民の真髄

第1章 道と法

第2章 日本精神

 

・断金の友にあらずんば、いかでか心事の深さを談じ合えようか(水雲問答:墨水漁翁・林述斎と白雲山人・板倉伊予守勝尚候)。『易経』「繋辞伝」に「二人心同じうすれば、その利 金を断ず」とある。「断金の侶」「断金の契り」「断金の友」という熟語がある。

・「我が心、秤の如し。人の為に低昂する能わず」(『揚竹庵文集』諸葛孔明)。

・中国に『三事忠告』という名著がある。内閣に与える「廟堂忠告」、司法官・警察に与える「風憲忠告」、地方長官に与える「牧民忠告」の3つからなる(『為政三部書』と筆者が改題して刊行)。例えば廟堂忠告には「任怨」「分謗」というチャプターがある。要職にある者は「怨に任ずる」心構えが大切である。誰かから恨まれても、俺は断じて我が道を行くという気概が必要である。

・「器量一杯に做し申候て、叶わざる時は身退くより外之無く候」

・いくら本を読んで知識を豊富に持っていても一つも役に立たんという学者がいるが、こういうのを「迂儒」(うじゅ)という。

・「鑒裁明断」(かんさいめいだん)」とは物事をよく鏡に照らし明らかに断定していくこと。ただ知識、人の話を聞いただけ、見ただけでは仕方がなく、見識があって初めて鑒裁明断ができる。

・「威恩並び施すは人君の道、一遍に靠(よる)るべからず」

前漢『劉向』(りゅうきょう)の『説苑』(ぜいえん)に国の亡びる兆候としての「五寒」が挙げられている。①政外る、②女厲し(はげし)、③謀泄る、④卿士(けいし)を敬せずして政事敗る、⑤内を治むる能わずして而して外を務む

藤田東湖、春日潜庵、横井小楠は陶鋳力を持った人である。真の日本精神、民族的能力を持った人にかかれば、いかなる国、いかなる民族の学問・信仰も「陶鋳」され、日本的なものになる。

・真の意味の道徳とは是非善悪をはっきり裁くものである。中庸・中立・中道は悉く的を外している。正しい思想・学問を興すことが大事でそれをやるより日本は救いようがない。