52ヘルツのクジラたち 町田そのこ

2020年4月25日初版発行 2021年4月10日15版発行

 

本屋大賞第1位。『王様のブランチ』BOOK大賞2020受賞。読書メーターOF THE YEAR

20020第1位。

確かに近年の本屋大賞受賞作の中では抜きん出て面白い本だったと思います。親による子どもへの虐待、その原因もまたその親の親にあったり、また虐待が現在進行形で続いているのに同居の家族は見て見ぬふりをする、それらによって子どもの心がどんどん壊されていく、それだけでも相当しんどい話です。でもそんな虐待をされている子どもの、声なき声を聴きとった主人公キナコの過去もまたとてもつらい。そのキナコを救ったアンさんとキナコを自己中で愛そうとした会社の上司との対立、そしてアンさんがキナコを救おうとして取った非常手段が結果的にアンさん自身を悲劇に巻き込むことに。アンさん自身も誰にも言えない悩みを抱えていたからこそ、キナコに寄り添うことができた。そんなアンさんの悩みを知ることなくキナコはアンさんに助けられ、ある意味で普通の生活ができるようになる。でも、結局、上司の自分勝手な言動でアンさんの予告どおりキナコは深く傷つき、そのため、それ以上にアンさんが深く深く傷ついてしまって、最後は悲惨な結果を迎えてしまう。

そのため、キナコさんは、突然、皆の前から姿を消してしまう。その後、キナコとアンさんの共通の友人の美晴が、キナコの居場所を何とか突き止め、キナコに再開する。その時、キナコは虐待されていた子ども(当初52と呼んでいた)と一緒に暮らしており、子どもの親族を探すために3人旅が始まる。そんな何重にも複雑に虐待やら人に言えぬ悩みやらが重なりあっていく。

クジラの52ヘルツの声は誰にも聞こえない。でもそんな声を発している子ども、そして時には大人がいるということに、日常の喧騒からどうしてもすぐに忘れがちな私たちに、もう一度周囲をよく見渡して声なき声を聴いてあげてください、そんな著者の切なる願いがこめられた、感動的な小説です。

著者は想像だけで、こんなにも心の奥深いところまでメッセージを届けることのできる、重い心の内を言葉にできたんでしょうか。そうだとすると、心底凄いと思いました。