2022年2月23日第1刷
表帯封で「全米で話題」「ナチスのホロコースト、チベット問題、世界貿易センタービル、バーミヤンの仏像など現在も未解決の問題の根底にあるものは?」と問い、裏帯封で「モスクはたんなる祈りの場ではない。敵にとっては、抹殺すべき共同体の存在を象徴するものである。図書館や美術館は歴史的な記憶の貯蔵庫であり、くだんの共同体が過去から存在していることを証だて、現在も、そして未来も存続する権利があることを示す。特定の意味を持つ構造物や場所が、意図的に忘却の対象にされる。ある種の建築や建築伝統を積極的に、しばしば組織的に破壊する行為は、建物や場所にこめられた意味や歴史、アイデンティティの抹消―つまり忘却の強制―そのものが目的の紛争で生じる。」としている。
表紙裏には「戦争や内乱は人命だけでなく、その土地の建築物や文化財も破壊していく。それは歴史的価値や美的価値を損なうだけでなく、民族や共同体自体を消し去る行為だった。からくも破壊を免れた廃墟が語るものとは。建築物の記憶を辿る」とある。
「序」から始まり、「第1章 はじめに 建築と記憶の敵」(建築物は永久には存在しない)、「第2章 文化浄化 誰がアルメニア人をおぼえている?」(モスタルの橋、『水晶の夜』、各地に根付いたモスクやシナゴーグ)、「第3章 テロリズム 士気阻喪、メッセージ発信、プロパガンダの手段」(世界貿易センタービル、IRAの活動、第二次世界大戦下の無差別爆撃)、「第4章 制服と革命」(踏みつけにされたユダヤ人、消されゆくチベット、エルサレム問題、文化大革命、バーミヤンの仏像破壊)、「第5章 壁と隣人 分断の破滅的帰結」(ベルファスト、ベルリン、イスラエル、キプロス、民族や宗教ごとの居住地制限)、「第6章 記憶と警告Ⅰ 再建と記念」(破壊された建築の再建は、誰にとっての真実であり、誰のための記憶なのか)、「第7章 記憶と警告Ⅱ 保護と訴追」(文化財を保護するために何をすべきか、破壊の責任を誰に問うのか)から成る。
ふんだんに資料的価値の高い写真を掲載し、ビジュアル的にも文化破壊が世界のあらゆるところで繰り返されている事実が容易にわかるように工夫されている。文章で大変詳しい説明がなされているが、歴史的知識が十分でないため、十分に理解するまでには至らなかった。それでも各章の冒頭に、印象的な引用文が散りばめられており、それが著者のメッセージと重なっていて、理解を助けてくれるのは有難かった。例えば「序」では「現在おこなわれている文化浄化から安全なものはなにひとつありません・・・それは人々の命や少数民族を標的とし、人類の古代遺産を組織的に破壊することを特徴とします。-ユネスコ事務局長イリナ・ボコヴァ、2015年3月」のように。