一市民の反抗 ―良心の声に従う自由と権利 Resistnce to Civil Goverment ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 山口晃・訳 

2005年6月20日第1刷発行

 

(表紙裏)1817~1862。アメリカ・マサチューセッツ州・ボストン近郊のコンコードに生まれる。詩人、作家、思想家、ナチュラリストなど多彩な顔を持つ。学生時代から、古典ギリシャ・ローマ、中世ヨーロッパの文学を深く愛し、また、東洋思想にも興味を持つ。自らの実践と観察、思索から生みだされた『森の生活』「一市民の反抗」「原則のない生活」「散歩」など数多くの著作のほか、アメリカ先住民や考古学・民俗学博物学への関心を深め、最晩年まで続く膨大な日記に書き記す。その著作は、トルストイマンデラ、J・F・ケネディ、フランクロイド・ライト、レイチェル・カーソン、アーネスト・シートン、ジョン・ミューアゲーリー・スナイダーなど、分野を超えた様々なリーダーに強い影響を与え手きた。本書のエッセイ「一市民の反抗」は、ガンディー、キング牧師の市民的不服従へと受け継がれ、政治思想としても貴重な遺産となりつつある。一日一日を何よりも大切に生きた彼の生涯とその著作は、自らの生活を意義あるものとして生きようとする現代の人々に、静かに力強く応えてくれる。

 

「一市民の反抗 ―良心の声に従う自由と権利」

 「私たちはまず人間として生きなければなりません。統治されるのはその後です」

 「私の唯一の正当な義務は、私が正しいと考えることをいつでもすることです」

 「奴隷制や戦争に反対の意見をもつ人は数多くいます。ですが、彼らは奴隷制や戦争を終わらせるために実際は何もしません。」

 「この国の千マイル四方に人間らしい人間は何人いますか。ひとりいるかいないかでしょう」

 「少なくとも不正に与しないこと、そしてもはや不正をするつもりがないのであれば、不正を支持しないことが人間としての義務です」

 「人を不当に刑務所に入れる政府のもとでは、正しい人間にふさわしい居場所もまた刑務所です」

 「良心が傷つけられるとき、ある種の地が流れるのではないでしょうか。この傷口から真の人間性と永遠性とが湧き出て、永遠の死に至るまで血は流れつづけます。私はこの血がいま流れているのが見えます」

 「法律家の真実は真理ではなく、整合性というか、つじつま合わせのご都合主義です」

 「国家が個人を国家よりも高い自律した力として認め、国家自体の力と権威はその個人の力から生まれると考え、そして個人をそれにふさわしいかたちで扱うようになるまでは、ほうとうに自由で開かれた国家は決して実現しないでしょう。すべての人にとって公正であり、個人を隣人として尊重して扱う、そうした余裕をもった国家が最後にはできることを、私はひとり想像しています」「国家がそのような果実を結び、熟して自然と落下するような経過をたどれば、さらに完全で栄光ある国家への道が開かれるであろうとまた想像することもありますが、そのような国家はまだどこにも見あたりません」

 

 

「ソローへの旅のはじまり」 山口晃

 Ⅲ

「『一市民の反抗』がもっている思想的な意味と、それが後の人々に与えた影響について考えてみましょう。この点でもハーディング『集注版』はとても分かりやすいので、もう少し援用させてもらいます。ハーディングはこのエッセイの要点を次の4つにまとめています。

1、国の法律よりも『高い法』がある。それは、良心、『内なる声』の法である。

2、稀なことではあるが、この「より高い法」と国の法律が対立するようになったとき、「より高い法」に従い、熟慮の末、国の法律を破ることは人の義務である。

3、国の法律を熟慮の末、破るのであれば、その行為の結果をすべて、最後は牢に入ることまで含めて、進んで引き受けねばならない。

4、しかし、牢に入るのは必ずしも消極的なことではない。というのも、それは善意の人々の注意を悪法に向けることになり、悪法の撤回をもたらす助けになるからである。あるいはもしもかなりの数の人々が牢に入れば、その行為は国家の組織の機能を妨げ、悪法の施行を不可能にするであろう」

 

 巻末に原文がついている。英語の勉強にはちょうどいいかもしれない。確かに、アメリルネサンスの旗手の一人ともいわれるソローの思想には、大いに学ぶべきところがある。