笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ ―名画に潜む「笑い」の謎 元木幸一

2012年10月6日初版第1刷発行

 

表紙裏「イタリア・ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが、人間の魂の高貴な輝きとして傑作≪モナ・リザ」の『笑い』を描いて以来、西洋絵画の歴史において『笑い』の表現は、数々の名画を生み出す原動力となってきました。17世紀の巨匠フェルメールの作品も、よく見ると、誘うような笑いから、恥かしさを示す笑い、皮肉な冷笑、嘲笑や嬌笑まで、多様で豊かな『笑い』に満ちています。多くの美麗な図版を通じて、名画における『笑い』の謎に迫ります!」

 

はじめにー「笑い」の奇襲

第1章 モナ・リザは、なぜ微笑むのか?

第2章 イエス・キリストの笑い

第3章 フェルメールの笑う女たち

第4章 笑いの裏側

第5章 絵を見て笑う

あとがき

 

女性の微笑について、16世紀イタリアの文人アーニョロ・フィレンツォーラ『女性の美しさについて』(1548年)では、女性の口元は微笑みを浮かべると「天国のごときもの」へと変貌するという。女性の微笑というものは「心の平静さと安らぎ」を伝える甘美な使者だという。当時の上流社会で女性の微笑は礼賛されていたことを夫が知っていたから、≪モナ・リザ≫に微笑が描き込まれたのかもしれない。モデルはリザ夫人であることが近年ほぼ確定したが、30歳のジョコンドが16歳のモナリザを描かせたのが真実であると確認された。本来の姿よりハイクラスな女性として描かせようとして微笑の得意な大画家レオナルドに肖像画を描かせたに違いない。

フェルメールは日本で初めて一部の知識階級ではなく、一般市民が自らの嗜好で選び取った画家かもしれない。一般市民が選び取ったのは何かと考えると「日常の価値」だったのではないかと思う。日常の価値とは、日常の面白さ、日常の謎と言い換えてもよい。

ハウスブーフやバルドゥング・グリーンの描いた「アリストテレスとフィリス」は驚いた。特に後者は有名な哲学者が裸になって美女を背中に乗せている姿をしている。これを見た人は思わず笑ってしまう。そんな「笑い」も取り上げた、なかなか面白い一書です。