新版 チップス先生、さようなら ジェイムズ・ヒルトン 大島一彦訳

平成28年5月17日初版第1刷発行

 

池田潔氏の「自由と規律-イギリスの学校生活-」を読んだ直後だったので、本書の良さをより一層味わうことができた。

 

チップスは英国で1848年に生まれ、70年にブルックフィールドへ赴任する。96年の春、古典研究学級で忙しい中休暇をとって湖水地方に旅行に行く。グレイト・ゲイブル山に登った時に家庭教師で25歳のキャサリンと出会い、ロンドンで挙式。キャサリンは夫にアドバイスするだけでなく同僚の教師や生徒らの人気者に。後にも先にも最高に幸福だった。ところがキャサリンは誕生したばかりの赤ちゃんと一緒に亡くなってしまう。妻子と死別したチップスは茫然自失となるが、授業への情熱は失わなかった。65歳でチップスは退職するが、3年後に再びブルックフィールド校に呼び戻される。時代は第一次世界大戦の真っ最中。

警報が鳴り響き弾が降り注ぐ中、ラテン語を教え続ける(この辺りは福沢諭吉を思い出した)。18年11月11日戦争終結。戦死者を多く出したことに慚愧の念を抱く。辞表を提出して今度こそ教師生活に幕を下ろす。送別会もなく、後任者と握手して静かに学校を去る。隠居先はブルックフィールドの敷地から道ひとつ隔てた場所にあるウィケット夫人宅。週末になるとかつての教え子たちが訪問してくれる。そんな彼が最期に言葉を交わしたのは、 ブルックフィールドへの復学が決まった少年・リンフォードだった。チップスのアドバイスで新しい生活の不安を解消したリンフォードは別れ際に「チップス先生、さようなら」と。チップスは85歳でその生涯を閉じる。

 

学校の先生になったら、是非、一度は手にして読んでごらん、と伝えたくなる一冊、でした。