数学者の言葉では《上》 藤原正彦

2013年12月10日発行

 

コロラド大学の女子学生ジョハナ・ダノス(愛称ハナ)から届いた手紙に書かれていたことはかつて著者も経験したことがあるようだ。それを切り口に学問を志す人の性格条件として①知的好奇心が強いこと②野心的であること③執拗であること④楽観的であることを挙げる。結局学者とは「好奇心がやたらに強く、いつも野心をたぎらせていて、周囲を辟易させるほどにしつこく頑固で、傲慢と言えるほどの自信家」「日本人の伝統的美徳感から外れている」人種だという。中でも学問を志すものに共通する三つの不安(1)自分の能力に対する不安(2)自分のしていることの価値に対する不安(3)自分の将来に対する不安について楽観的である必要があり、これらの不安と折り合いをつけて生きていくことができる性格でなければならないとしている。

・日本では高校までの学校及び家庭教育でインテリジェンスの知識的側面が強調され、アメリカではその技術的側面が重視されていると対比した上で、日本の中高で論理的思考や表現能力の比重を現在よりはるかに高める必要があり、大学に入ってからでは遅すぎると言いつつ、受験地獄との兼ね合いから一朝一夕には改善されないかも知れないと悲観している。

・新婚旅行先のパリで妻と一緒に入ったストリップで注文していないシャンペンが出されたので当初は代金を払おうとしなかったが、最終的に1万5千円の小切手を受け取らせたという少し恥ずかしい話も臆面と書かれているのには少々面食らった。