世界の森林破壊を追う 緑と人の歴史と未来 石弘之

2003年4月25日第1刷発行

 

裏表紙「世界の森林はこの10年、日本の国土面積の4倍が失われた。もはや全地表の3割ほどに減った森林に、燃料伐採、木材輸出、プランテーション造成、牧地開発など、とどめるすべのない破壊の手が伸びる。開発、保全、貧困、南北問題など、さまざまな力がせめぎあうなか、一方には惨状から立ち直り、見事な森林再生に成功した国もある。問題のかたちは国ごとに異なり、解決の方向もさまざまだ。朝日新聞記者として、国連環境計画顧問として、研究者として世界中の森を自分の目で見てまわった著者が、世界11ヵ国の森林破壊の歴史を追い、再生への道筋をさぐる。」

 

目次

まえがき

1 ふたたび大災害の足音―中国

2 貧者のエネルギー危機―インド

3 ヤシ油が蝕む熱帯雨林―マレーシア

4 人口爆発に食われた森―ケニア

5 開拓を支えた原生林―アメリ

6 砂漠と隣り合うアマゾン―ブラジル

7 火入れが変えた森―オーストラリア

8 山火事に燃えるタイガ―ロシア

9 酸性雨で傷めつけられた森―ドイツ

10 森林をめぐる戦いの歴史―イギリス

11 国を救った人工の森―スイス

終章 森林はどこへゆく

あとがき

 

・20年以上も前の古い本だが、既にその時点でこれだけの世界の森林問題があったということを知るのは有益だと思う。

・中国では唐代で山東半島四川省以外の森林はおおかた消えた。四川省も森林で覆われているのは現在では13%のみ。長江流域全体で過去30年間に森林の85%が失われた。洞庭湖の面積は100年前の3分の1に。

・インドはかつて国土の約8割が森林で覆われていたと推定される。が19世紀に大きく変貌した。イギリス植民地時代の初期には国土の66%が森林で覆われていたが、独立直後に40%に減少し、2001年には21%に縮小した(国連食糧農業機関)。90~98年の洪水、干ばつなどの自然災害による死者は年平均5536人で2位の中国を大きく引き離して世界1位。

・マレーシアで森林伐採が本格化したのは50年代後半から。国土の80%以上を覆っていた森林面積は98年には66%にまで下がった。

ケニアの人口密度は45年に1㎢当たり9人だったのが00年には53人と6倍になり、国土に占める森林面積は17%とも30%とも推定されているが、80年の調査で3%になり、現在は2.3%しか残されていない。

アメリカは、1850年には25%の土地が原生林に覆われていたが、20年後には15%に急落した。ルーズベルト大統領は保護政策を進め、現在では32%にまで戻り、ロシア、カナダ、ブラジルに次いで世界で4番目の森林資源国の地位を保っている。

・ブラジルは16世紀半ばまでに海岸部の森林はあらかた消えた。アマゾン地域の森林消失率は78年3.8%だったのが、89年10%、95年12.4%、98年は13.7%と予測されている。

・オーストラリアは国土の57%が砂漠やステップの乾燥地域で占めている。クイーンズランド州北東部で熱帯林を擁する。1860年以降の農地開発によって森林面積の3分の2が失われた。

・ロシアは世界の自然林の26%を保有する最大の森林国である。ロシアの森林は「欧州ロシア」「極東ロシア」「シベリア」の3つに区分できる。タイガの伐採が禁止されているのは8%、部分制限は24%に過ぎず、極東ロシアでは木材は外貨獲得の稼ぎ頭で伐採は止まらない。

・ドイツでは、1980年代から酸性雨による森林枯死が始まった。82年には7.7%だった被害面積が1年後には34%に広がっている。ピークの86年には53.7%にまで急上昇した。10%以下になった森林は持続性を理念とした森林政策の成果で現在は30%に持ち直した。

・イギリスでは燃料のために広大な森林が伐り開かれ、現在の森林率は10.6%しかない。

・スイスは国土面積15%にまで減った森林が30%を超えるまでに回復した。

・森林が急速に縮小したのはアフリカである。2割から4割を失っている。中南米でも4分の1から3分の1を失った。インドネシアでは40%が失われた。森林破壊の最大の原因は農業や畜産のための開墾で、第2の原因は木材生産のための伐採である。人類の文明史は森林喪失の歴史でもある。国際協力の歴史はまだ浅いが、世界的な森林保全の枠組みを作り、植林を進めていかねばならない。スイスやドイツのように歴史の教訓を謙虚に学ぶべきである。