日本の新時代ビジョン 「せめぎあいの時代」を生き抜く楕円型社会へ 鹿島平和研究所 PHP総研[編]

2020年10月29日 第1版第1刷

 

表紙 「変われない日本」をいかにして変えるのか?

サイボウズ社長 青野慶久 ジャパンタイムズ 代表取締役会長兼社長 末松弥奈子 鹿島平和研究所会長 平泉信之 慶應義塾大学教授 安宅和人 福岡市長 髙島宗一郎 レバレッジコンサルティング代表取締役CEO 本田直之 国際大学学長 伊丹敬之 現代美術家 椿 昇

慶應義塾大学教授 大屋雄裕 防衛大学校名誉教授 戸部良一 CBREグローバルインベスターズ・ジャパン取締役 松本道雄 法政大学教授 小黒一正 PHP研究所取締役専務執行役員 永久寿夫

神戸大学教授 三品和広 ニセコ町片山健也 東京大学名誉教授 西垣 通 ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー 御立尚資 慶應義塾大学教授 片山杜秀 Preferred Networks 最高業務責任者 長谷川順一 慶應義塾大学教授 宮田裕章 PHP総研代表 金子将史 PHP総研主席研究員 亀井善太郎 総合研究大学院大学学長 長谷川眞理子 広島県知事 湯﨑英彦

 

裏表紙

第1部 なぜ私たちは変わらなければならないのか

第2部 対話編

第3部 せめぎあいの時代を生き抜くために

 

402頁もある、大部だが、表紙に出てくる人物の幅の広さ、これらの人たちが本書テーマにどういう切り口で語っているのかは、きっと勉強になるだろうと思って読み進んだ。これは買って損はない。面白かったです。

 

はじめに

 これからの時代の本質を、①グローバル化と国家の復権、②工業化とデジタル化、③テクノロジーの活用とリスク社会、④ヒエラルキーとネットワークの、4つの軸での「せめぎあい」と捉える時代認識として示し、「せめぎあいの時代」をリードする日本を立ち上げようとする試みであるという趣旨が述べられる。

 

第2部 対話篇

 爆発するルネサンス 古代の復活が国家を閉塞感から脱却させる 御立尚資

 ガンジーはリーダーシップの天才です。進化の大枠と方向性を決める際、いちばん大切なのはプリンシプル(規範)を言語化することです。ガンジーは社会変革にあたり、まず「労働なき富」や「人格なき学識」「人間性なき科学」など「7つの社会的罪」を簡潔に記しました。守るべき大枠だけ決め、あとは個人で考えるよう促したのです。

 

 日本軍のパラダイムを考える 白兵銃剣主義と大鑑巨砲主義 戸部良一

  戸部 いまのご指摘で思い出したのが、先ほどのイギリスの海上護衛戦です。あの局面で最も大事なのは、敵のUボートを撃破することではない。自国の輸送船を無事に送り届けることです。その点に気づいた人がイギリスにはおり、日本にはいませんでした。

 御立 まさにダニエル・カーネマンアメリカの心理学・行動経済学者)のいう認知バイアスですね。過去の経験則に基づいて、最短で回答を出そうとするヒューリスティック(発見的)な意思決定が最も危ない。いったん立ち止まってスローパスを選び、なおかつそもそもの目的論に立ち返らなければいけない。

 金子 そこに全体最適を考えうる立場であるべき政治家の強みや、専門性に膠着したパラダイムを乗り越える可能性があるのかもしれませんね。

 

 国家を守る保険制度 災害多発の21世紀に学ぶべき先人の試行錯誤とは 片山杜秀 

 火災をはじめとする自然災害への備えとして、マイエット東京大学医学部教授)は、何と火災保険の国営化と強制加入を訴えました。・・急速な近代化を余儀なくされ、その歪みとして多くの工場・炭鉱労働者が労災で命を落としたドイツの惨状が脳裏にあったことから、ドイツ以上に遅れた日本の近代化にあたり、国家主体の健康保険や失業保険の手当てが不可欠だ、と彼は考えた。・・しかし、頓挫。

 数学者の藤澤利喜太郎(東京帝国大学教授)は・・ドイツでの体験から、社会主義の蔓延に先んじて民間の生命保険を立ち上げることが急務である、と考えました。簡易生命保険によって低所得者を保険に加入させる「経世済民事業としての生命保険」や、社会主義に加わる労働者を増やさないための「治安維持としての生命保険」を目指したのです。

 

 人間とチンバンジーを分けるもの 他者との心の共有、協力する力がヒトたるゆえん長谷川眞理子 

  私たちは、体重のわずか2%分しかない脳を維持するためだけに、食物をエネルギーに変える代謝の20%を使っている。

 

 AIは意味を扱えない 機械を自立した主体と見なすことで起きる社会的混乱 西垣通

 ◎文脈や常識は度外視 ◎有限状態ゲームで勝つのは当然 ◎AIは「神」なのか ◎コンピューター科学対サイバネティクス ◎AI兵器は「使った者勝ち」? 

 

 大学に10兆円の基金を 日本企業は大敗中、人の出入りがなければ最悪の結末に

安宅和人

 ◎データの量と人材が少なすぎる ◎既存の企業関係を壊す「本物の下剋上

  年ごとの理工系の大学卒業者数を比較すると、日本より韓国のほうが約10万人も多い。

 ◎モノとデータ・AIを組み合わせる ◎妄想力を呼び覚ませ ◎夢×技術×アート

 

 日本版故宮をつくれ アートを経済として見るのが世界の常識 椿昇  

 ◎グローバル経済の最優等生 ◎「彼らはアートの未来だから」 ◎グローバル資本との「組み手」を考えるべき ◎皆がハッピーにならないかぎり国力は上がらない ◎「中国の夢」に組み込まれる日本

 

 食こそ最強の観光ツール 日本でベストレストラン50の開催を 本田直之

 ◎なぜ日本人シェフが力を付けたのか ◎「世界のベストレストラン50」の経済効果 ◎地域が見失った宝を再発見する ◎慣れ切ったデフレ頭で考えるな 

 

 ディープラーニングの実装 何に使えば爆発的に広まるか 長谷川順一 

 ◎ディープラーニングトランジスタラジオ ◎人間を上回る視力 ◎ものづくりとの融合 ◎RNAによるがんの判定 ◎誰でも使える自動化を求めて ◎ディープラーニングは学問ではない

◎医療データは誰のものか

 

「わがまま」を認める会社 企業の生産性より社員の幸福度を語れ 青野慶久 

 ◎多数派が動かす社会のおかしさ ◎組織は石垣 ◎公平と幸福は異なるもの ◎人手不足は歓迎すべき ◎大切なのは自問自答

 

 「厳しい人本主義」への回帰 安定的な人のネットワークづくりは経済合理性に合致する 伊丹敬之 

 ◎じつは蘇っていた日本企業 ◎企業は誰のものか ◎厳しい人本主義経営が必要 ◎外資は意外と人を見ている ◎経営・経済問題の政治化

 

 株主重視と社員重視のあいだ 岐路に立つ日本企業 三品和広 

 ◎「日本企業」とは何か ◎「創業経営者」と「操業経営者」の違い ◎日本人の経営者の報酬は「高すぎる」 ◎中庸の制度設計を ◎裁定者をいかに据えるか

 興味深いのは、日本の経営者でリスクを取ってM&A(合併・買収)に積極的な人は、学生時代に麻雀や競馬にのめり込んでいたりする。考えてみれば納得で、自分のお金を張ったこともない人が、他人の資金で勝負しようと考えるほうが間違いでしょう。学歴週さいで株もパチンコも無縁という温室育ちの経営者は、やはり「守られる」だけの立場に甘えている気がしますね。

 

 デジタルトランスフォーメーションの挑戦 仕事と暮らしの充足を諦めない 湯崎英彦 (広島県知事)

 ◎臥龍の目を覚ます ◎県をデジタルテクノロジーの実証フィールドに ◎仕事をつくれる人をつくる ◎国に対して提言する都道府県へ ◎

 

 アジアのリーダー都市へ 権限と現場が両立する政令市の強み 高島宗一郎(福岡市朝)

 ◎シアトルと福岡市 ◎スタートアップなくして雇用創出なし ◎天神ビックバン始動 ◎世界を変えるロールモデルになる ◎人数が少ないほど早く決まる ◎規模に拘らなければ可能

 

 小さな世界都市をつくる 住民に公開・共有して困るような情報はない 片山健也(ニセコ町長)

 ◎日本の自治体は半世紀何をしていたのか ◎情報公開から情報共有へ

 たとえば図書館の運営に関して、ニセコ町では図書の選定に行政はいっさい関与せず、お母さん方が運営するNPO法人に任せています。義務局長の面接も役場はいっさいノータッチ。役場や教育委員会の人間を一人でも入れると、行政主導で事が動いてしまう。反対に住民に任せたところ、絵本の読み聞かせなどさまざまな主体的な活動が自然に生まれました。結果、図書館という公共施設がお年寄りや子供が世代を超えて集まる「愛される居場所」になったのです。

◎公共の場でいえない本音とは何なのか ◎「小さな世界都市」「環境創造都市」の実現 ◎町が直接世界と向き合う ◎人間にはあらかじめ問題解決力が備わっている

 

 謎の国・日本を言語化せよ 権威主義国家への対抗 大屋雄裕 

 ◎リベラリズムが陥った縛り ◎世界政府なき世界政府モデル ◎主権国家の逆襲 ◎蘇るグレート・ゲーム ◎日本はジャンクフードを食べる高校生? ◎「人の命か、経済か」を政治家に決められるか 

 

 同調圧力を超えるエビデンス データが地理的制約からの解放をもたらす 宮田裕章

 ◎LINEによるコロナ全国調査 ◎民主主義の輪郭を描き直す時期 ◎医療情報は共有財である ◎新しい中世、新しい縄文 ◎ネットワークを解放する力 

 

 第3部 せめぎあいの時代を生き抜くために

   1 せめぎあいの時代には楕円型の社会を

   2 新たな中心をつくるための3つの「場」

     ◎「地域」 ◎「企業」 ◎「教育」

   3 この時代を日本が生き抜くための5つの原則

    ①人を大切にする社会、人に投資する日本に

    ②言葉、歴史、風土に根差す価値を再発見し、世界に伝えられる日本に

    ③変化の兆しを受けとめ、学び合える、寛容な日本に

    ④検証可能な記録を残し、自らを律し育てるに

    ⑤情報を共有し、みんなで未来を決めることができる日本に

   4 むすびにかえて

 

項目を拾い出すだけでも、新しい視点が随所にあることが分かります。

特に広島県知事、福岡市長、ニセコ町長は、現役の地方自治の首長として、実際に新しい発想で行動に移されているのには新鮮な驚きがありました。ぜひ他の政治家の方々にもこの部分だけでも読んでほしいと思いました。