中原の虹4 浅田次郎

2010年10月15日第1刷発行

 

帯封「新生中華民国に颯爽と現れたカリスマ指導者・宋教仁。しかし暗殺者の手により時代は再び混乱し、戊戌の政変後日本に亡命中の榮文秀の帰国が望む声が高まる。極貧の中で生き別れた最後の宦官・春児と馬賊の雄・春雷はついに再会を果たす。そして龍玉を持つ真の覇者は長城を越える!魂を揺さぶる歴史冒険小説、堂々完結。」

 

第7章 満州の風に聴け

 太宗ホンタイジ(ヘカン)の後の三代として幼き福臨(順治帝)が龍玉を安んじ奉り天命を戴く。袁世凱は農林総長に就任した栄教仁の前で本官に天命があると宣告する。吉永と一緒にいた張作霖は街中で自分を殺そうとした刺客を拳銃で射ち、吉永が敵か味方か見定めるために吉永に止めを命じ、吉永は否応なしに従う。趙爾巽は張作霖から論ぜず戦わずただ出て行けとだけ言い、自らの仕事を張作霖に引き継ぎ、天津に向かう。道中に汽車の岡を同行させて。すると張作霖以下は盛装をこらし馬を走らせて“ご苦労様、あとは引き受けた”と次々に趙に声をかける。東三省は袁世凱孫文の言いなりにならない、北京では力づくで袁世凱が政府を作り、南京にいる孫文は追認するほかない状態となる。馬占山の息子鄭薫風は張作霖から「没法子(どうしようもねえ)」というだけで本気で叱られた。どうしようもなけりゃどうにかすりゃいいんだ!と。鄭薫風の親友漢卿は母の寿命が尽きかけた時、親友を家の奥の建物に祀った盤子様まで連れて行き龍玉を見せる。軍人ではなく医師になってほしいと母から言われた漢卿は親友に相談するために。

 蝙蝠のような袁金鎧は、朋友王永江とやり取する中で、孫文が考えた三序の第一段階は袁世凱が実現し、栄教仁による選挙を通じた政権奪取の末に国民党を誕生させるという今後の展開を空想する。

 吉永を通じて張作霖と栄教仁が手紙のやり取りをする。中華民国第1回総選挙で国民党が圧倒的多数を占めたのは栄教仁が袁世凱との一騎打ちに勝利したから。ところが栄教仁は何者かに暗殺されてしまう。

第8章 越過長城

 天津で趙爾巽は袁金鎧を助手として清史稿を残そうとする。人はおのれの歴史的な座標を常に認識する必要があるから歴史を知らねばならぬ。であれば能う限りの正しい歴史を後世に遺さねばならぬと。私を捨て、過去の歴史を鑑み、現在の状況を思料し、もって未来の他者に利をもたらすこと、それが人としての善である。

 袁世凱は南京を陥し孫文を日本に亡命させ臨時ではない中華民国大総統に就任する。国民党への解散命令を発し専制君主となり皇帝となる。大連で、大総管として李春雲は将軍としての春雷と相見える。張が持つ龍玉を袁世凱に譲渡されたいと。拒否されると、記録に残さない形で本心は袁世凱ではなく溥儀に戻すために渡されたい旨本心を明かす。その上で再び公式記録として拒絶されて会談は終わる。終わり際に春雲は春雷に3日後の朝に大連の大桟橋で人を迎えるようお願いする。当日そこに春雷は銀花を連れて訪れると、日本から文秀と玲玲がやって涙の再開を果たす。

 禅譲と信じていた溥儀であった、皇帝の玉璽と儀仗を譲ってほしいと袁世凱から言われ誰もが反対できずに渡した後、西太后が溥儀の前に現れ「正大光明」の文字を認めた順治帝の心が袁世凱にある、植民地にせず前に進むしかない、それができるのは袁世凱しかいないと諭す。玉座を前に尻込みする袁世凱の前に今度は乾降帝が現れ遂に袁世凱玉座に座らせる。が国民は100日で袁世凱玉座から引きずり下ろし袁世凱自ら帝政取消を宣言する。同時に総理大臣に再任されるが亡命を計画する。その直前に袁世凱は「紹興の陳しき酒 斟み来れば色は茶に似たり 湖楼の夕酌 仙家に勝る」と吟じる。そこに栄教仁を暗殺した溥儁が現れ、勧められた阿片で袁世凱は憤死する。

 最後は、貧しき人々を救うため、三代順治帝の召書を賜ったダイシャンが山海関を越え、張作霖が同じく山海関を越えていく。

端章

 最後に媼が現れて、俺様は貧乏人だと叫びながら張作霖が長城越えを背を抱きしめ、決して「没法子」と言わぬ勇者の声を聴いた。

 

 結構、蒼穹の昴から中原の虹まで、長い物語だったが、非常に良い物語だ。うーん。小説家の才能というのは、スゴイ。私心なく自らのやるべきことをなす、ということくらいしか今世では出来ぬかもしれぬが、それでもよい。どうにかしてやろうという気概を生涯持ち続けて頑張ろう!