2007年6月18日第1版第1刷発行
帯封「これまで誰もがとりあげようとしなかった主題である。正面から論ずることを回避してきたテーマである。それを広い視点から、柔軟な筆遣いで明らかにしようとしてる。山折哲雄氏絶賛 『あの戦争』が何であったかを斬新な切り口で検証する画期的論考」「賢治と莞爾。イーハトーブと満洲国。いったい、この二人は何者なのか。共通点はある。それは、二人がともに法華経の熱心な信者であり、当時、一世を風靡した在家の法華経教団である国柱会の会員だったことである。しかも、この二人は、入会時期もほぼ同時期なのである。宗教的理想を根底にして、社会変革を夢見たユートピア思想家。このような観点から、宮沢賢治と石原莞爾の業績とその位置づけを整理してみたい。そして、その結果見えてくるものを、この混迷の時代に逆照射してみたい。(『はじめに』より抜粋)」
うーん、抜群に面白い。法華経を真ん中に、左の賢治と右の莞爾位のイメージしかなかったが、それぞれの人物を法華経や田中智学との関係から照射し、それを現代に逆照射するという試みは斬新だ。戦前戦後に法華経信仰に基盤に相次いで立ち上った創価学会、霊友会、立正佼成会についても僅かながら理解が深まった。
目次
はじめに
第1章 法華文学こそわが使命―宮沢賢治
国柱会と法華文学
東亜連盟と西山農場
法華経の時代
田中智学の人と思想
日蓮における光と影
第4章 賢治における光と影
修羅としての賢治
デクノボーと不軽菩薩
『疾中』と晩年
第5章 ユートピアを夢見て
イーハトーブとは何か
第6章 現代を映す鏡
激動の時代の中で
戦後というユートピア
夢の喪失と再創造
・極東軍事裁判の訊問に先立ち裁判長から「何か言うことはないか」と問われた石原が「ある。…不思議にたえないことがある。満州事変の中心は、すべて自分である。事変終末の錦州爆撃にしても、軍の満州建国立案者にしても皆自分である。それなのに自分を、戦犯として連行しないのは腑に落ちない。(横山臣平『秘録石原莞爾』)
・市川房枝は『石原莞爾全集』発刊の折、推薦文を寄せている。「石原中将は軍人でも違う、今までにない偉い軍人だと思います」
・評価の別れる石原莞爾だが、著者は石原莞爾の思想を骨子として次のように要約する。
1.戦争の種類には、持久戦争と決戦戦争があり、時代ごとに交互に出現すること。
2.それに対し、戦闘方法は、点から線、線から面へと直線的に進歩し、最後は体になる。これが戦争の最終形態である。
3.これらが相互に発展した結果、最後に東西両文明による最終戦争(決戦戦争)が行われ、その後、永久平和が訪れる。
4.その根拠となるのは、日蓮上人の予言「前代未聞の大闘諍一閻浮提に起こるべし」の言葉である。
・智学を支持した多くの著名人たちとして、著者は『小説神髄』の坪内逍遥、『滝口入道』の高山樗牛、『邪宗門』などの北原白秋、『大菩薩峠』の中里介山、東京帝国大学教授の姉崎正治、真宗の清沢満之(現大谷大学の初代学監)などをあげる。
・智学の時代を先取りした斬新なアイデアとして、機関紙の発行と書籍による伝道をあげ、日刊新聞『天業民報』(国柱産業株式会社)、『宗門の維新』などをあげ、辞典、全集、各種教書、戯曲、史劇脚本、能、狂言、端唄、小唄に至るまで三百書に昇る。
本書には、随所に読んでみたい本が沢山紹介されている。本書を手がかりに、賢治と莞爾をしばらく力を入れて、その思想的背景を勉強していきたいと思う。